中学受験「偏差値40台」目指した子の最後の結末 偏差値50以下の受験に挑むことの意義

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塾では「ずっこけ3人組」に向けての指導が本格化していた。3人まとめて合格させるぞ!という講師陣の気迫が明らかに感じられた。

当初、別の学校を第一志望にしていた来夢さんだが、ほかの2人が目指す学校がいつしか来夢さんの第一志望校となった。3人で、同じ学校に合格しよう! お互いにそう励ましあって小6の後半を過ごした。

12月に行われた直前の4教科模試の偏差値は35。直前の模試では合格圏内に入れず、来夢さんは不安なまま受験当日を迎えた。だが、最後の最後で桜は咲いた。来夢さんはその第一志望校の合格を見事に手に入れたのだ。偏差値40台後半、彼女が精一杯頑張ってやっと手が届くかどうかという学校だ。

偏差値上位校に入ることこそが“受験の成功”と思っている人にとっては、来夢さんのこの合格に価値は感じられないかもしれない。

しかし彼女には、まぎれもなく価値ある勝利だったといえる。3年以上、受験勉強生活で抱え続けた劣等感を払拭することができたようだ、と美佐子さんは感慨深そうに振り返る。

それだけではない。一度は“逃亡”までしながらも踏みとどまり、自らの意志で頑張り抜くという粘り強さ。それによって目標に到達できたという大きな自信を、彼女は手に入れたのだ。

できないことに背を向けず、自分の力で目標までたどり着いたという達成感は、きっと、これからも彼女の支えになることだろう。

偏差値上位校の合格だけが成功ではない

最後に、母美佐子さんはこう語ってくれた。

「偏差値底辺で頑張っている家族の方々へのエールになればと思って、今回お話させていただこうと、取材に応募しました。2人の娘の受験を通じて感じたのは、偏差値上位校に受かることだけが中学受験の成功ではない、ということです。自分で頑張り抜くという経験ができたこと、子どもにとって大切なのは、間違いなくそのことだったとはっきり言えます」

偏差値の高低という他人との比較ではなく、自分自身で決めた目標にどう立ち向かったか。受験の目的と評価について、そうした認識を親子で共有できれば、大変な受験も、前向きな思いとともに記憶に残るのではないだろうか。

これはきれいごとではまったくない。中学受験は人生のゴールではなく、人生の勝敗は、中学受験で決まるものでもない。まだまだ成長の途上にある子どもたち。中学受験という体験を、親子でどういう記憶にしていくかが、その後の子どもの糧となる。上位校に入学することだけが勝ちではない。中学受験を終えたすべての子どもたちに、改めて拍手喝采を送りたい。

本連載「中学受験のリアル」では、中学受験の体験について、お話いただける方を募集しております。取材に伺い、詳しくお聞きします。こちらのフォームよりご記入ください。
宮本 さおり フリーランス記者

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みやもと さおり / Saori Miyamoto

地方紙記者を経てフリーランス記者に。2児の母として「教育」や「女性の働き方」をテーマに取材・執筆活動を行っている。2019年、親子のための中等教育研究所を設立。

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