男女の平均勤続年数差の解消も目標にすべきだ 現状は女性の就業者数、就業率しか見ていない

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また、「量」の議論だけで十分とはいえない。それを示すのが、勤続年数の男女間での差異である。厚生労働省が発表する賃金構造基本統計調査によると、10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所における平均勤続年数(一般労働者)は、2019年時点で男性が13.8年であるのに対し女性は9.8年と女性が男性に対して短い。

日本企業は一部に雇用形態の多様化を進める動きはあるものの、一般的には「メンバーシップ型」の雇用形態をとる企業が多い。「メンバーシップ型」雇用とは、終身雇用・年功序列を前提として、OJT(On the Job Training)を中心に、人材を企業に合うように長期にわたり育成していく雇用システムである。すなわち、多くの日本企業においては勤続年数が長い人材ほど、その企業を通した生産性は高いと言える。勤続年数の差は「仕事の熟練度」の面から生産性の差につながる。

また、男女の賃金格差の要因を分析した例においても、日本の場合は「平均勤続年数」の差が大きく寄与している実証研究がある。生産性と賃金の関係は「卵が先か、鶏が先か」という話といえるが、「高い賃金をもらっているからには高いアウトプットを出そう」という因果関係はゼロではないだろう。「平均勤続年数長期化⇒賃金上昇⇒生産性改善」というパスも存在しうる。

「量」「数」だけでなく「定着」を目標に

これらはあくまでも「メンバーシップ型」雇用をとる日本企業における勤続年数に起因するものであり、女性の勤続年数を男性並みに引き上げることによって解消可能な差である。むろん、日本企業は「メンバーシップ型」から「ジョブ型」に徐々にシフトしているという面もあるが、それも一朝一夕にはいかないだろう。したがって、生産性の底上げには「時間がかかって当然である」「結果がすぐに出るものではない」という視点をもって議論を進める必要がある。

女性の社会進出という課題において、「量」「数」の面にだけに注目すると、「とりあえず数を増やせばよい」と考えがちである。しかし、経済への影響も考えると、最終的には「定着」の議論が必要になってくる。政策対応においては、「量」「数」といった短期的な目標に過剰に焦点を当てず、「生産性の改善」すなわち「定着」に関連したデータも目標としたほうが、スムーズな女性の社会進出を実現できると筆者は考えている。「定着」を確認するためには一定の時間を要するが、具体的なマイルストーンを置くことでプロセスを具体化すれば、建設的な議論は可能である。

ここで、どの程度時間がかかる問題なのか、という疑問が生じる。以下では、いくつかの仮定を置いて「平均勤続年数」のギャップ縮小のイメージをシミュレーションした。むろん、「平均勤続年数」が生産性のすべてを決めるわけではないし、「時間がかかるならしょうがない」とあきらめる姿勢は望ましくない。今回の試算や分析が「何もしなければ時間がかかることを前提に処方箋を議論する」きっかけになればよいと考えている。

次ページ「平均勤続年数」のギャップ解消に要する時間
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