コロナ対策で国と東京都がいがみ合うわけ 独自性求める小池知事、都の財政構造も遠因に

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小池知事としても、今は知事派が都議会で過半数の議席を維持しているが、次の都議選で都民ファーストの会の議席が減ると、知事派の議席が過半数を割ってしまい、都政運営に支障が出る。自民党は過去の都知事選と都議選で小池知事と対立しており、両者は容易に妥協しそうにない。

小池知事はかつて自民党の国会議員だったため、自民党との違いを明確に出さないと、存在感を示しにくい。菅首相と協調して新型コロナ対策を講ずるという対応だと、都知事として主導権を発揮したように映らない。自民党との差異が見えず、7月の都議選で都民ファーストの会に援護射撃もできない。

税収格差是正に東京都は猛反発

さらに、国と都の間の不調和は財政構造も遠因となっている。わが国の財政における「東京問題」とみなされているのは、地方税制の税源が偏在していることである。東京都は他の道府県と比べて突出して税収が多く、この税収格差は地方交付税制度によって是正されているが、それでもなお不満を抱く自治体も多い。

そこで政府は、そもそも都道府県が徴収する税である事業税の一部を国に「上納」させ、それを国が再分配する仕組みを導入した。これによって東京都の収入は減少し、他の道府県の収入が増えた。地方交付税制度は、国が都道府県を介さずに国税として徴収した税を再分配する仕組みだが、それだけではまだ格差が残るため、このような仕組みを新たに設けたのだ。

東京都は、この制度の導入が検討されたときから大反対である。東京から財源を奪う動きを「東京狙い撃ち」と称して反論キャンペーンも展開した。しかし、国会議員の定数是正が進んでいないこともあり、政界では多勢に無勢で、その仕組みは結局導入された。税収格差是正の方策は事業税以外に法人住民税にも及び、恒久的な仕組みとして定着している。

国の財政赤字はかさみ、国債残高が累増しているが、東京都債の残高は2001年度をピークにコロナ禍前までは順調に減少していた。こうした財政状況の差も、国が都に対して冷たい態度をとる背景にある。

ともあれ、国と都の対立は都民にとってもいいことはない。コロナ対策で首相と都知事が都民を置き去りにして手柄争いをしても、新規感染者数を低位安定させなければ元も子もない。

確かに、東京都における医療に関する権限の多くは、都知事が持っている。国が制度設計や財源措置をしても、実際にそれを現場に分配するのは都知事である。したがって、どうしても小池知事のパフォーマンスが目立つことになる。しかし今こそ、過去の経緯を脇に置いて国と都が協調すべきときである。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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