1974年、北里研究所の室長だった大村智博士は、静岡県のゴルフ場の土壌から新種の放線菌を発見。これをアメリカ・メルク社との共同研究を経て誕生したのが、抗寄生虫薬・イベルメクチンである。
アフリカや中南米などに蔓延するオンコセルカ症は、失明に至る恐ろしい病だが、メルク社と北里研究所はイベルメクチンを無償で配布した。これによって中南米のオンコセルカ症は、根絶された。イベルメクチンによる寄生虫治療が評価され、大村博士は2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
イベルメクチン(商品名:ストロメクトール)は、日本で寄生虫や疥癬(かいせん)の治療薬として承認されたが、新型コロナの治療薬としては未承認だ。
北里大学では、「COVID-19対策北里プロジェクト」を寄付金で立ち上げ、イベルメクチンの医師主導治験(臨床試験)は公的研究費で行われている。
同プロジェクトの司令塔を務める花木秀明教授は、イベルメクチンの新型コロナの予防と重症化を防ぐ、2つの効果が海外で報告されたと話す。
「南米のペルーでは、去年の新型コロナ第1波が来たとき、60歳以上の住民に、イベルメクチンを8つの州で予防薬として無料配布しました。すると新規感染者数と死亡者数が、一気に減少したのです(グラフの青色部分)。
第2波が来ても、下げ止まりしたままでした。
一方、首都のあるリマ州は、3〜4カ月遅れでイベルメクチンを配布したので、新規感染者数と死亡者数も配布と同時に減少していることがわかります(グラフの赤色部分)」
(外部配信先ではグラフを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
花木教授によると、イベルメクチンの治療効果に関しては、バングラデシュ、エジプト、トルコ、インドなど世界27カ国、86件の臨床試験(RCTを含む)や観察研究が行われているという。また、17件のRCTを対象にしたメタアナリシス(複数の論文を解析する研究)で、「初期治療で71%の改善」「後期治療で50%の改善」「予防投与で91%改善」という結果が出たという(「COVID-19 early treatment:real-time analysis of 319 studies」の研究結果。これは医学誌に掲載された論文ではない)。
第3波の影響で臨床試験は事実上ストップ
現在、北里大がイベルメクチンの第2相臨床試験を行いながら、コロナ治療としての承認を得ようとしている。だが第3波の影響で、遅れが出ていることを花木教授は明らかにした。
「患者が急増して、イベルメクチンの臨床試験は事実上ストップになりました。治療が優先だからです。東京都医師会や都立病院が臨床試験に参加してくれることになりましたが、空白期間を巻き返せるかわかりません。
イベルメクチンは30年以上、年間約3億人が服用して、大きな副作用もなく、価格も安い。海外で有効性が報告されているので、第2相臨床試験の結果をもって特別な承認も検討してもらいたい」
(筆者注:医薬品の承認は通常は第3相臨床試験まで必要)
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