イベルメクチンに超期待する人が知らない真実 コロナ治療薬?「過熱報道と臨床現場の温度差」

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実は、コロナ軽症患者を対象にした治療薬の候補として、イベルメクチン以外にも複数の薬が存在している。その1つが痛風治療薬のコルヒチン。カナダ、アメリカなど6カ国が参加したCOLCORONA試験では、重症化リスクのある軽症患者4488例が対象。コルヒチン投与群は、30日後の死亡および入院リスクが、プラセボ群より21%抑制された(公表データは査読前論文)。

日本でコルヒチンの医師主導治験を進めている、琉球大学の植田真一郎教授(臨床薬理学講座)に研究の意義を聞いた。

「コロナウイルスの変異株が出ているので、ワクチンだけでコロナを解決できるかどうかわかりません。少なくとも軽症患者が重症化しない治療薬があれば、病床逼迫も回避できるはずです。

日本でコルヒチンがまったく評判になっていない理由ですか?

それは治験中に期待を持たせすぎると、患者の誘導になるので、私たちが積極的にアピールしていないからでしょう。有効性があるか否か、わからないから治験を行うのです。それなのにコロナに効くというイメージを、患者に与えるのは倫理的に問題です」(琉球大・植田教授)

国のコロナ対策や専門家に対して不信感が深まり、SNSでは個人の思い込みや根拠に乏しい情報が飛び交うようになった。一例として、「アビガンが承認されていないのは陰謀」という説が一部で信じられている。

医薬品の承認を受ける際のRCTは、「治験薬」か「プラセボ(偽薬)」か、患者にはわからないようにするのが大原則。アビガンの場合、それが不完全だったというのが真実だ。現在、アビガンは再審査に向けて臨床試験の準備が進められている。

イベルメクチンを特効薬とする報道は論外

医薬品の承認審査に詳しい東京大学薬学部の小野俊介准教授は、イベルメクチンをめぐる騒動についてこう述べた。

「ちょっと頭を冷やして、と言いたいですね。コロナ禍という非常事態であっても、イベルメクチンを特効薬とする報道は論外です。現時点では、イベルメクチンは効くかもしれないし、効かないかもしれない。

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RCTにも、研究によって信頼性に差があるので、海外のデータが日本で同じ結果になるとは限らない。薬の審査は、そんなに単純なものではありません。質の高い数千人、数万人の大規模臨床試験を行わない限り、当面の有効性はわからないのです」

軽症患者の治療薬があれば、新型コロナも「ただの風邪」として、恐れる必要はなくなるかもしれない。いま日本を含めた世界各地で、さまざまなコロナ治療薬の臨床試験が進んでいる。その結果は、そう遠くない時期に判明するはずだから、一部メディアの情報に惑わされず、もうしばらく冷静に見守りたい。

岩澤 倫彦 ジャーナリスト

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いわさわ みちひこ / Michihiko Iwasawa

1966年、北海道・札幌生まれ。ジャーナリスト、ドキュメンタリー作家。報道番組ディレクターとして救急医療、脳死臓器移植などのテーマに携わり、「血液製剤のC型肝炎ウィルス混入」スクープで、新聞協会賞、米・ピーボディ賞。2016年、関西テレビ「ザ・ドキュメント 岐路に立つ胃がん検診」を監督。2020年4月、『やってはいけない、がん治療』(世界文化社)を刊行。近著に『がん「エセ医療」の罠』(文春新書)。

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