埼玉医科大学総合医療センターで、新型コロナ対応の指揮をとる感染症専門医の岡秀昭教授。当初、世界中が手探りだった新型コロナの治療が、この1年間で劇的に変化したと話す。
「新型コロナの肺炎は、ウイルスを排除する免疫が暴走してしまうサイトカインストームによって、肺に炎症を起こし、呼吸が苦しくなることがわかってきました。そこでデキサメタゾン(ステロイド)を入れて炎症を鎮める。炎症が起きると血液が凝固してしまうので、ヘパリンという血液をサラサラにする薬で凝固を食い止める。酸素吸入が必要な患者には、これが最も効果的でスタンダードな治療法になっています」
「当初、理論的にはステロイドは使わないほうがいい、と言われていました。ステロイドには炎症を鎮める効果だけでなく、免疫をつかさどる白血球の動きを止めてしまう働きがあるからです。かえってコロナウイルスが元気になってしまうだろうと考えられていたんですね」
「ステロイドの治療がスタンダードになったのは、イギリスで多くの患者を対象にした、質の高いRCT(Randomized Controlled Trial)と呼ばれる『ランダム化比較試験』で、死亡率を下げることが証明されたからです」
「注意したいのは、軽症患者にステロイドを使うと免疫が下がり、かえって感染症を悪化させて逆効果になる可能性です。それにステロイドの副作用で全身状態を悪化させてしまう場合がありますので、ステロイドは軽症者に使いません」
岡教授によると、残された課題は軽症者を重症化させない薬だという。コロナの場合、すでにある薬を使う「リポジショニング」が圧倒的に多いが、前評判の高い薬が臨床試験で否定されるケースが続いている。
イベルメクチンも明確な有効性は証明されていない
「例えば、ヒドロキシクロロキンという、アメリカのトランプ前大統領が服用した抗マラリア薬は、臨床試験で有効性がないと判定されました。注目を集めたアビガンも有力な候補ですが、まだ有効性は証明されていません。
話題のイベルメクチンも質の高い大規模な臨床試験で有効性が証明されておらず、ガイドラインでも推奨されていません。未承認の薬なので、現場で患者を実際に診ている私たち医師は研究目的以外には処方していないのです」
一般社会に広まる情報と診療現場にはギャップがある、と話す岡教授。
だが最近になって一部メディアが「奇跡の薬」「コロナの特効薬」として、イベルメクチンを取り上げるようになっている。
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