イベルメクチンに超期待する人が知らない真実 コロナ治療薬?「過熱報道と臨床現場の温度差」

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3月4日、信頼性の高いアメリカ医師会の医学誌『JAMA』に、コロンビアで行われたイベルメクチンの研究論文が公表された。新型コロナの軽症患者400人をランダムに2つのグループに分け、5日間連続でイベルメクチンを投与したグループ、プラセボ(偽薬)を投与したグループを比較したRCTである。この結果、コロナの症状が解消するまでの期間に2つのグループに統計的な有意差はなかった。

北里大・花木教授は、この研究について次のように指摘する。

「この論文は、悪化率がイベルメクチン投与群で2.2%(6人/275人)、プラセボ群で3.0%(6人/198人)でした。通常、感染者の20%が悪化するので、本治験は信じられないほど低い数字です。97%以上が自然治癒する母集団になります。この母集団ではイベルメクチンが効いても効かなくても有意差はつきません。

このRCTの本来の目的はイベルメクチンの悪化率抑制ですが、悪化する患者がいないので目的を達成できず、そのために目的を変更しています。通常、治験の根幹となる目的変更を行ったRCTの信頼度はとても低くなります。ほかにもプラセボが準備されていないのに試験を開始するとか、プラセボ群の75人にイベルメクチンを投与するとか、95%以上が在宅患者など、どうやって治験をコントロールしているのか不思議な治験だと思います」

一方、医薬品の臨床試験に長く関わっている、日本医科大学の勝俣範之教授(腫瘍内科)は、別の見解を示した。

コロナ軽症患者に大きな有効性は認められない?

「イベルメクチンの研究は、後ろ向き研究や小規模の前向き研究(※)など、信頼性の乏しいものばかりでした。今回の研究はイベルメクチンの有効性を検証した、初めての質の高い大規模臨床試験の結果です。評価を悪化率から完全寛解率に変更したり、一部のプラセボ群にイベルメクチンが投与されるプロトコール違反があったりするなど、問題点も見受けられました。

ただし、その問題点を考慮して、完全寛解率75%と計算、誤って有意差が出なくするエラーを20%に保つようにして、プロトコール違反があった症例を除いて解析するなどしています。さらに複数の方法で念入りに解析した結果、イベルメクチン投与群とプラセボ投与群に有意差はみられませんでした。少なくとも、コロナ軽症患者に、イベルメクチンは大きな有効性は認められないと判断してよいでしょう」

(※後ろ向き研究は、治療が終了した患者を対象に、仮説を立てて過去にさかのぼって原因と結果を研究する手法。研究側の選択バイアスがかかりやすい。治療開始から追跡する前向き研究のほうが、質が高い)

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