スペイン初「日本女性サッカー監督」怒涛の人生 「チャーハンでも炒めてろ!」を乗り越えて

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2003年には、日本のS級ライセンスに相当するNIVEL IIIを日本人として初めて取得。同じ年にスペインリーグ3部のプエルタ・ボニータの監督に就任した。3部ではあるが、スペインリーグのチームを日本人、しかも30歳の女性が務めるのは異例だった。その翌年、アトレティコ・マドリードの女子を率いた年は、試合中のスタンドからこんなヤジを受けた。

「チャーハンでも炒めてろ!」

佐伯このようなさげすむ言葉やむき出しの敵意には、すでに慣れていました。凝ったヤジだなと思ったときは、振り向いてほほ笑んだりしました。

「誰ひとり取り残さない社会」を目指したい

佐伯さんが目指すのは「誰ひとり取り残さない社会」だ(写真:ⓒJ.LEAGUE)

2004年から名門アトレティコ・マドリードで女子チームの監督などを務めた後、バレンシアを経て2008年にビジャレアルCFと契約。トップチーム以下のすべてのカテゴリーを指導した。2014年から始まった同クラブあげての指導改革をリード。全年代のスペイン代表に選手を送り込む同クラブの育成部を支えてきた。

佐伯バレンシアと契約したとき「チームのために全力を尽くします」と、私なりに抱負を述べたつもりでしたが、強化部長から「チームのためじゃなく、自分のキャリアのために仕事をしてくれ。チームのためではなく、チームとともに歩んでくれればいい」と言われました。組織に自分を捧げるのではない、と。本にも書きましたが、この国はたとえ相手が会社であっても対等な関係なのです。日本にも必要なマインドだと思います。

昨年3月からJリーグの常勤理事を務め、12月から2月いっぱいまで日本に滞在した。Jリーグなど国内で開催された大会を観戦した際は、このコロナ禍でスタンドに観客を入れていることに衝撃を受けた。

『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

佐伯スペインはもちろん、欧州では考えられません。運営側が施す徹底した感染対策を、サポーターもきちんと理解し遂行する。もともと公衆衛生面で優れている民族とはいえ、すごいと思いました。

実は、理事就任を決める際、戸惑いはあった。

佐伯日本の組織で私が生きていけるのかという不安は少なからずありました。ジェンダーとか、価値観とか、さまざまな面で私が絶対的に少数派になってしまうのではないかと。ただ実際に入ってみて、Jリーグという組織の想像以上の健全な風土感に驚いています。

皆が互いを尊重し合い、傾聴し受容する姿勢は、欧米文化においてもなかなか実践されていない点だと感じます。従業員の中に海外で学んだり就労経験のある人が多いことや、フットボール(サッカー)自体がグローバルなのでマインドがオープンです。

一方で、スポーツ現場のパワーハラスメントや、近ごろ取りざたされるジェンダーバイアスなど、日本の課題も感じている。

佐伯私は、どうしてもこうしたハラスメント案件などに対して、正義の心から全身全霊で怒ってしまうようなEQ値がとても低い人間。でも、怒っているだけじゃ何も変わらないと、改めて思いました。私は「誰ひとり取り残さない社会」の形成を目指したい。であれば、裁くのは法に任せて、社会全体で改善、治療、回復、更生といったサポート体制をつくる。そんな道を考えていきたいですね。

チームのためではなく、チームとともに。

サッカーの本場、欧州で積んだ経験を糧に、日本の「人と組織」を変えられるか。今後の活躍に注目したい。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文芸家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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