カズオ・イシグロが語る「AIが生む哲学的格差」 人間が直面する雇用消滅の先にある大問題

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「寂しい」というのは友達がいる・いないと言った日常的な感覚の話ではなく、人間そのものの性質が寂しいものなのか、という意味です。クララはこうした質問をするようにプログラムをされており、彼女はそのレンズを通じて人間の世界を見ているわけです。クララがどう人間を観察しているか。これが物語の前景です。

人間はどう機能して、何をどうやって感じるのか。誰かを愛するとき、そのもとになっているのは何なのか。そういうことを、これまで話したようなさまざまな変化のもとで考えるわけです。

経済的貢献以外の価値が必要になる

――AIによって私たちが従来の貢献ができなくなった場合、私たちは貢献の定義を考え直すべきでしょうか。それとも、社会における別の貢献の形を考えないといけないのでしょうか。

後者でしょうね。私たちはこれからまったく違う考え方をしなければなりません。何らかの功績に対して社会的な地位を与えたり、お金で報いたりするのは、旧来の産業革命型モデルに基づいた考えです。それ以前の農業モデル時代は、私たちは自分で自分が食べるものを作らなければなりませんでしたが、例えば自分のために働いてくれる人がいれば、その人に食べ物を与えるなどして報いることができました。

しかし、こうしたモデルとは違うものが台頭してきたとき、人に対して地位や尊厳、価値があるという感覚を与えるのはとても難しいことになるでしょう。これは人間にとって大きなチャレンジになると思いますが、私たちは経済的な貢献という狭い範囲でしか社会貢献を考えてこなかった、という点ではいいチャレンジであるとも言えます。

一方で、経済成長は機械に任せて、個人が負担を負わなくてよくなれば、人間はほかのことで価値が測られるようになるかもしれない。これは理想主義的で、非常にナイーブな意見かもしれませんが、子どもや高齢者、病気の人の面倒を見るといった、仕事以外にも重要なことはこの世にたくさんあります。

やること自体に価値があり、もっとうまくできることがほかにあるにもかかわらず、私たちは長きにわたってどの程度経済貢献をしたかのみによって、人の価値を判断してきたわけです。これは、AIが医療や法曹などエリートが多く属する分野も含めて、仕事を奪うことになったとき、大きな問題になるでしょう

すでに医療の分野ではベテラン医師より、AIや機械のほうが効率的かつ上手にできることが増えてきています。ここで興味深い問題の1つは「私自身の仕事がなくなるかどうか」です。

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