カズオ・イシグロが語る「AIが生む哲学的格差」 人間が直面する雇用消滅の先にある大問題

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――小説家の仕事ですか。

私とAIが小説を書いて、出版社はどちらかできのいいほうを売るようになるのかどうか、非常に興味深い問題です。AIが小説を書けるかどうか。この点についても、私は『クララとお日さま』で触れています。AIは人の感情を本当に理解できるのか。そして共感できるのか。

もしできるのであれば、AIは私を笑わせたり、泣かせたりする小説を書けるでしょう。できないのであれば、小説に近いものではあるけれど、人の心を動かせるものにはなりません。

AIが感情というものを理解するだけでなく、ある特定の感情を刺激したり、いろいろな感情に訴えたりと、感情を操作できるレベルに達するのかどうか。これはある意味、私がやっていることです。

AIが新たな体制を生み出すかもしれない

AIが私を泣かせるものを書けるようになったとしたら、それは「小説が書ける」というよりもっと大きな話だと思います。AIが政治家の選挙キャンペーンに利用できるレベルまで行くということですから。AIが人々の感情を操作できるレベルに達した場合、今使われているデータやアルゴリズムといったものより、もっとパワフルなものとなるでしょう。

『クララとお日さま』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトへジャンプします)

AI自体が共産主義や資本主義といった新たな体制やコンセプトを考え出す可能性もあります。過去には人間がこうしたものを考え出しましたが、AIはこれとはまったく違う、社会を新たに組織する仕組みを見いだすかもしれません。AIが小説を書けるレベルに達したら、さらに大きな社会的影響を懸念すべきときかもしれません。

――感情を持つAI、あるいは感情を理解するAIはなかなか想像がしにくいです。

小説の中のクララは、人に好意を抱いているように思えますし、感情を持っているようにも思えます。しかし、本当に感情を持っているかどうか。彼女はともに暮らす人間の家族の感情まで理解できるのか、それともデータやエビデンスをもとにそういう状態があると表面的に理解しているのか。彼女に愛の概念はわかるのか。物語の中で、クララはある目的のために購入されたことを知り、愛とは、人間の愛とは何なのかを問うようになるのです。

人間はそれぞれ違うものなのか、なぜ人間はそれぞれが違う個性を持っていると考えるのか。何をもとに人間はそう考えるのか……。今の世の中にはさまざまな問題がありますが、私はAIロボットがある家族と暮らすという物語を通じて、そうした問題に触れられたのではないかと思います。

倉沢 美左 東洋経済 記者

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くらさわ みさ / Misa Kurasawa

米ニューヨーク大学ジャーナリズム学部/経済学部卒。東洋経済新報社ニューヨーク支局を経て、日本経済新聞社米州総局(ニューヨーク)の記者としてハイテク企業を中心に取材。米国に11年滞在後、2006年に東洋経済新報社入社。放送、電力業界などを担当する傍ら、米国のハイテク企業や経営者の取材も趣味的に続けている。2015年4月から東洋経済オンライン編集部に所属、2018年10月から副編集長。 中南米(とりわけブラジル)が好きで、「南米特集」を夢見ているが自分が現役中は難しい気がしている。歌も好き。

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