カズオ・イシグロが語る「AIが生む哲学的格差」

人間が直面する雇用消滅の先にある大問題

格差は貧富間だけでなく、働ける人と、働けない人の間にも存在するようになります。これは、社会に貢献できる人と、社会に貢献できない人という、より哲学的な格差につながるでしょう。人間にとって大きな脅威です。

そうなったとき、はたして人は自らの価値をどう測るのか。企業で働くといった古いスタイルの社会貢献が奪われてしまったとき、どうやって社会に貢献をしていったらいいのか……。AIの台頭は、人々が仕事を失われた後、どうなるのかという大きな問題を抱えていると思います。

例えば、国の20%しか働けなくなったとき、どうしたらいいのか、という問いに対しては、多くの人が答えを出していますが、いまだに説得力のあるものを聞いたことはありません。私たちの大半はずっと「誰もが働かなければいけない」という考えのもとに成長してきましたが、このこと自体を根本的に考え直さなければいけなくなるのです。私たちが生き方を完全に見直さないかぎり、暴力や戦争、あるいはひどい貧困が起きる危険性があります。

AIが下す決定に人間が関与できるのか

もう1つ、AIが抱える問題は、AIシステム自体が持ちかねない偏見やバイアスです。これまでの世界であれば、何かブラックボックス的な状況があれば、「この決定は人種差別的、性差別的な偏見に基づいている」という指摘ができました。

しかしAIの世界では、例えば、保険の審査にしても、医療方法にしてもAIが決めることになり、その決定において新たなブラックボックスが発生します。それでも、私たちにはAIがなぜそう判断したかを知ることは困難です。これは人間にとって大きなチャレンジとなります。AIの決定プロセスに人間がどう関与できるのか、という問題です。

民主主義の脅威になりえる可能性もあります。民主主義は20世紀において、非常に成功しました。独裁主義や共産主義といったほかのシステムよりも、私たちを経済的に豊かにしてくれたからです。しかし、AIはこのゲームを大きく変える可能性があります。

例えば、中央集権型の政府がAIを利用すれば、より有効的にリソースを分配し、社会を活性化できるようになるかもしれません。警察機関については、AIや監視カメラなどの機能を使えば、間違いなく今より運用は楽になるでしょう。今のように、大量の警察官を雇わなくてよくなるわけですから。

『クララとお日さま』のバックグラウンドには、こうしたさまざまな問題が横たわっています。一方で、私にとっては、今回の慈善的なキャラクター(クララ)が、人間がどのように機能するのかを学ぶことに熱心で、「人間はなぜ寂しく感じるのか」「人間は生まれながらに寂しいものなのか」といった疑問を抱くことが重要だと思いました。

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