ISISがイラク侵攻、中東全体の秩序脅かす

過激派の勢力拡大で秩序の流動化が進みかねない

オバマ大統領は軍事行動に慎重(写真:AFLO)

オバマ米大統領は5月28日にウエストポイント陸軍士官学校で行った演説で、外交・安全保障戦略の基本的な姿勢を定義した。そこではテロを最大の脅威と認定しつつ、米国へ直接的に影響を及ぼす場合以外は、軍事行動を最小限にとどめ、同盟国の対処能力を向上させて、政治的解決を重視する原則を示した。

このいわば「オバマドクトリン」の実効性が早速試されている。6月19日に発表したイラク対策方針では、直接戦闘を行わない軍事顧問団を派遣してイラク政府軍・部隊の訓練に当たらせるとともに、イラクでの挙国一致政権の設立を要請するとしている。

イラン覇権拡大のおそれ

オバマ大統領は公的な発言で、ISISの伸長を米国への「中・長期的」な脅威と厳密に定義している。すなわち米国にとっての「短期的・直接的」な脅威ではないという認識であり、この段階では軍事行動は極めて限定的で見えにくいものになるだろう。

しかし米国が軍事的な支援に躊躇すれば、マーリキー政権は一層イランとの同盟関係を強めていくだろう。オバマ政権の対処策は理論的には精緻に練られたものである。だが、単に米国の影響力の低下と、イランの中東地域での覇権確立を許すだけに終わるかもしれない。そうなれば、オバマ政権が外交・安全保障上の成功事例として政権の遺産にしようと力を入れているイラン核開発問題の交渉でも、大幅に不利な立場に置かれる。

米国の同盟国であるサウジアラビアやトルコは、ISISを直接支援していないが、スンナ派住民の不満には共感を示している。米国がマーリキー政権への支援を通じてイランの勢力圏拡大を容認すると受け止めれば、これを脅威と認識し、反発を強め、宗派紛争を各地で惹起する形でイランとの覇権競争を激化させていくだろう。その場合、イラク・シリア・レバノンにまたがる地帯で、中央政府からの離脱傾向や不安定化が進む。今は安定的に見えるヨルダンとサウジアラビアも、この不安定な地帯に接しており、その波及が危惧される。

イラクとシリアの国家・国境の形骸化が進めば、イラクのクルド人勢力は、最大限の版図を軍事的に確保したうえで独立に進もうとするだろう。それによって、第1次世界大戦終結時以来の、中東での国境再画定を目指す秩序の流動化が進みかねない。

「週刊東洋経済」2014年7月5日号<6月30日発売>掲載の「核心リポート03」を転載)

 

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