ISISがイラク侵攻、中東全体の秩序脅かす

過激派の勢力拡大で秩序の流動化が進みかねない

「アラブの春」で反体制抗議行動の波が及んだシリアでは、東部や北部への政府の実効支配が薄れた。その機会をとらえ、ISISは越境して拠点を形成、現在のイラクへの侵攻の足掛かりにした。13年に組織名を、現在の「イラクとシャームのイスラーム国家」に変え、イラク・シリア国境の両側で活動を活発化させた。

急速にISISが伸長した背景には、土着の部族勢力の呼応や、旧フセイン政権指導層が組織する、「ナクシュバンディーヤ教団軍」などとの連携があるとみられる。ISISを「国際テロ組織」とのみとらえることは、現段階に至っては適切ではない。組織の中核には、世界各地からジハード戦士を呼び集め、自爆テロを盛んに用いるアル=カーイダ型の集団がいることは確かだが、地元勢力の呼応や諸勢力との連合関係がなければ、ここまで短期間に勢力は拡大しないだろう。

勢力拡大の背景

現在はいわば諸勢力が「勝ち馬に乗る」形で、ISISの勢力が拡大しているが、そのことは、後に統治の方法や戦略・戦術をめぐって連合が割れ、勢力が崩壊あるいは雲散霧消する可能性を示している。ISISが得意とする、インターネット上での動画や声明による巧みな宣伝によって、勢力が過大に見積もられている可能性もある。

ISISの支配地域は、北部と中部のスンナ派が多数派である4県、ニネヴェ、サラーフッディーン、アンバール、ディヤーラに限定されている。これらの県では、現在のイラクの体制を定めた05年10月の憲法制定国民投票で、過半数あるいは3分の2が反対票を投じた。それに対して、シーア派やクルド人が多数を占めるほかのすべての県・都では、圧倒的多数が憲法案に賛成票を投じていた。

イラクの現体制に対して、地域・宗派間で支持・不支持が鮮明に分かれており、旧体制で支配層を多く出していたスンナ派が、現体制の下では少数派として疎外されたとする不満を強めていることが、現在の対立の根幹にある。

ISISはザルカーウィーらが構想していた、バグダッドを包囲して南部のシーア派主体の地域から切り離す戦術を採用しているもようだ。シリアと同様に、中央政府の支配の及ばない範囲が領域内に成立し、首都が恒常的に脅かされる、長期的な内戦状態に陥る可能性がある。シーア派が多数を占める南部ではISISの大規模な侵攻は難しいだろうが、ナジャフやカルバラーなどシーア派の聖地でテロを行って宗派紛争を刺激する危険性がある。

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