科学者が夏には元の生活に戻れると考える根拠 アメリカで急浮上した楽観論の前提にあるもの

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中でも最大の不確定要素は人間の行動だ。以前の生活に戻りたくてうずうずしているアメリカ国民が、マスクの着用を続け、家族や友人とのソーシャルディスタンス(密の回避)を維持できるだろうか。店舗やオフィス、学校をあとどれくらい閉じたままにしておけるだろうか。

確かに死者数が以前ほど急激に増加することはなさそうだし、コロナ禍は最悪期を脱した可能性がある。それでも、アメリカ国民があまりにも早く気を緩め(すでに多くの州が行動制限を解除しつつある)、アメリカでも他国同様に変異株が広まれば、数週間のうちに感染者数は再び跳ね上がってもおかしくない。

科学者は、これを「第4波」と呼んでいる。ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で公衆衛生を専門とするアダム・クチャルスキー氏によれば、新しい変異株の拡散は「私たちが基本的にパンデミックの中で(新たな)パンデミックに直面している」ことを意味する。

感染者数が減少しているのは事実だが、それによって憂慮すべき傾向が覆い隠されているのだ。

ワクチンより大事な行動変容

ニューヨーク・タイムズのデータベースによれば、新規感染は過去2週間で35%低下した。入院患者は31%、死亡者は16%減っている。それでも、これらの絶対数は昨年11月と同等の極めて高い水準にあると科学者は指摘する。数字が下がり続ける保証もない。

「減少傾向にあったとしても、感染者数が極めて高い数字となっているのは問題だ」とハーバード公衆衛生大学院のマーク・リプシッチ教授は話す。「減少傾向の兆しが見えたからといって、それを理由に規制を解除すれば今以上に感染者数を増やすことにもなりかねない」。

実はワクチンでは現在の感染減少の理由は説明できない。ホンジュラス、カザフスタン、リビアのようにワクチン接種がまったく行われていない国でも感染は減ってきているからだ。感染が急激に減少した最大の要因は、もっとありふれたものだと科学者は言う。人々の行動変容だ。

クリスマスシーズンにかけて感染が急増したのを受け、アメリカなど各国の指導者は行動規制を強化した。だが、感染の減少には個々人の選択も重要な役割を果たしている、とアメリカン大学で公衆衛生法と倫理を専門とするリンジー・ワイリー教授は指摘する。

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