マスク時代の会話「目線の工夫」取り入れるコツ 池上彰×佐藤優が語る「伝え方の極意」
佐藤:顔のどこを見て人物を判別するかというと、やはり目元なんですよね。このまま当面、マスク生活が続くようなら、その可能性は高いでしょう。コミュニケーションということでいうと、目で会話する──つまり相手の目から読み取ること、そしてこちらの目(視線)から発信することの両方がかつてないほど重要になっています。
池上:間違いありませんね。「マスク時代のアイコンタクト」というのは大きなテーマです。日本は、もともと「相手の目を見て話す」ということをあまりしない文化の国ですから、相手と話すうえで、アイコンタクトをちょっと工夫したほうがいいでしょう。
佐藤:アイコンタクトひとつとっても、文化的な違いがありますね。
池上:そうですね。たとえば欧米では、目を合わせないと「この人は腹に一物あるんじゃないか」などと思われやすい。街中やエレベーターなどでも他人ににっこりして、軽く「Hi」なんて言う。これは「私には敵意がありませんよ」というサインを示すためですから、そういう文化のない日本は、相手に対して敵意がないことを示す必要がないくらい平和ともいえますけれど。
佐藤:日本では、相手の目をじっと見つめると、かえって威圧的と受け取られてしまうかもしれません。
池上:そうですね。だから私は人と話すとき、次のように法則化しています。まず相手の目を見て話し始めたら、途中でボーッと視点をぼやかして、相手の顔の輪郭の外側あたりを見る。そうすると、目をじっと見なくても「あなたのほうを見て話を聞いていますよ」という印象を与えることができます。そして、ときどき自分の手元に目を落としたり、相手の手元を見たりと視線を動かして、大事なときだけグッと相手の目を見るんです。
佐藤:ずっと見つめられてはかえって話しづらくなるでしょうから、目線を相手の顔のあたりでローテーションさせるというのはいい考えですね。
モニターに映る相手を見てはいけない
佐藤:「目は口ほどにものを言う」とはいえ、いざ口元を隠してしまうと一気に表情が伝わりにくくなってしまいますよね。日本人は表情が乏しいとも言われますが、マスクで顔半分が覆われていることが多い今は、普段よりも表情をしっかりと表現するように意識するのも大事ですね。
池上:今、盛んに取り入れられているリモートミーティングでも、オーバーリアクションは重要です。リアルで相手と直接対面しているとき、「何となくの空気感」で伝わる情報量は侮れません。それがないリモートでは、表情を大きくするほか、大きくうなずく、あえて手元も画面に映るようにして身振り手振りを加えるなど、オーバーリアクションを心がける。それだけでもコミュニケーションの充実度はだいぶ違ってくると思います。
佐藤:リアルで会う機会が減っているなかで、どう画面越しにうまくコミュニケーションをとるか。これも、コロナ禍を機に大きく変化しつつあり、しかも変化が根付いていかざるをえないところですね。