サウジがドバイに仕掛けた経済戦争の真意 中東の経済覇権を狙うサウジの野望から見えるもの

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2021年2月5日、アメリカのバイデン大統領はイエメンの人道危機を救うべく「内戦を終わらせるべきだ」と述べた。サウジをイランが関与する勢力によるミサイル攻撃などから守るための支援は続けるとしながらも、フーシ派の「テロ組織」指定を解除。サウジへの武器売却や軍事作戦へのすべてのアメリカの支援を停止すると述べた。フーシ派もサウジも、各々にバイデン発言の都合のよい部分を都合よく解釈して喜んだ。

イランの脅威に対しても、サウジとUAE両国間でずれがある。UAEはイランの脅威に対しサウジと共闘する同盟国でありながら、国内に50万人ものイラン人を抱えている。数千のイラン企業があり、UAEとイランは年間数十億ドル規模の貿易を行っている。

サウジは「イランの核開発や弾道ミサイル開発は地域の安定を脅かす」と断罪する一方で、UAEは3つの島をイランに不当に占拠されているという外交問題を抱えながらも、完全にイランとは断絶しない外交的立場を取っている。いわば、アラビア語のことわざでいうところの「ムアーウィヤの髪1本」のバランスを保っている。

対イラン、トルコ政策でもズレが生じるサウジとUAE

「ムアーウィヤの髪1本」というのは、イスラム史上初の世襲イスラム王朝となったウマイヤ朝(661~750年)の初代カリフであるムアーウィヤが、とても不安定な情勢にもかかわらず40年間なんとかうまく統治してきた秘訣を問われたとき、「私と人々の間の手綱が髪の毛1本だったとして、髪の毛が切れないくらいの力加減で、引きが強ければ緩め、引きが弱まれば切れない程度に引くという塩梅を保ったからだ」と述べたということにちなむ。

トルコからの脅威については、サウジがトルコに対して「ムアーウィヤの髪1本」のバランスを保っている状態だ。サウジとUAEはトルコが支援するムスリム同胞団の脅威に対し、一致団結して共闘しているように見える時期があった。

2018年、サウジ人ジャーナリストのカショギ氏がトルコのサウジアラビア総領事館で殺害された事件で、サウジとトルコの二国間関係は最悪になった。サウジとUAEはトルコの新オスマン主義をメディアで激しく攻撃。シリア北部のクルド問題を非難し、経済的圧力をかけた。

だが、サウジはUAEのように、リビア問題でハフタル派を支援してトルコに軍事圧力をかけたりしなかった。アルメニアとアゼルバイジャンの紛争にも深入りせず、UAEのように2016年にトルコで起きたクーデーター未遂事件の首謀者ギュレン氏を支援したり、トルコ国内に諜報網を構築しようとしたり、トルコのリラ通貨戦争に加担したりもしなかった。

そのためトルコはサウジとの関係が修復可能と判断。2020年10月、サウジではトルコ製品非買運動が再燃していたが、政府主導ではないと釈明。翌11月G20リヤド・サミットが開催された。サルマン国王とエルドアン大統領は電話会談を行い、両国外相がナイジェリアのイスラム協力機構会議に出席後に会談。二国には氷解の兆しがある。本格的に氷解すると、UAEは独り置いてきぼりを食らう形になる。

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