サウジがドバイに仕掛けた経済戦争の真意 中東の経済覇権を狙うサウジの野望から見えるもの
GCCは1981年に、防衛・経済をはじめあらゆる分野における参加国間の調整、統合、連携を目的に設立された。GCC加盟国のサウジとUAEはイエメン戦争でも「アラブ連合軍」を結成し、2015年から共に戦ってきた。2017年、サウジ、バーレーン、UAE、エジプトの4カ国は、イエメンのテロ組織フーシ派を支援しているイランと、これに協力したカタールと3年以上にもわたり国交を断絶した(2021年1月4日に、クウェート首長の仲介で国交回復合意が実現した)。
サウジとUAEは戦略的同盟の枠組みの中で、つねによい関係を維持し、「イラン」からの脅威に対峙してきた。「トルコとカタールがムスリム同胞団を支援して、湾岸諸国の安全保障を脅かしている」という認識をも共有してきた間柄だ。レベルの差はあれ、イスラエルとも国交を正常化すべきだとの認識さえ共有している。実際にUAEは2020年にイスラエルと国交を正常化している。
イエメン戦争で裏切りを感じたサウジ
だが、微妙なずれもあった。UAEがイエメン戦争に参戦した目的は、紅海のバブ・アル・マンデブ海峡の支配だ。海峡の入り口にあるぺリム島にUAE軍が上陸して、全島民を追放。島民の住宅を没収し、島民は半島の砂漠の難民キャンプでのテント暮らしを強いられている。
さらに海峡近くの都市ダバブを占領し、1万人にも及ぶ住民が砂漠の難民キャンプでのテント暮らしになっている。またモカ珈琲の発祥の地・モカの港も、UAE軍が支配して立ち入り禁止にした。このような状況となり、海峡付近での漁業は禁止されたため、漁業を生業にしていたこの地域の住民たちの生活が困窮している。
UAEは統一イエメンを再度南北に分けて、「南イエメン」を復活させようとしている。UAEに忠誠を誓う非政府武装勢力に資金援助をし、半島南部にぺリム島、ダバブ、モカの港を含んだ海岸線を支配させている。
つまり、UAEはサウジとフーシ派との戦いの間隙を突いて、ぺリム島や戦略的港湾をUAE軍支配下に置き、イエメン南部の独立派を支援した。その目標が達成されるとイエメン戦争撤退を決意して、サウジに何の相談もなしにUAE軍をイエメンから完全撤退させてしまったというわけだ。
サウジはそのUAE撤退後もイエメン戦争を続けている。2019年9月14日にサウジアラビア東部にあるアラムコの石油施設が攻撃された。サウジの石油生産量の半分、世界の石油生産量の5%が減少し、国際金融市場が不安定になる事態を招いた。
サウジはUAEに裏切られたと感じている。2021年1月23日には首都リヤドがフーシ派の弾道ミサイル攻撃を受けた。この攻撃は現在も続き、迎撃の際の破片がリヤドの民家に落下したと報じられた。
サウジとUAEはなるべく不和を表に出さないようにしているが、両国間に生じた溝は深い。現在のイエメンは、サウジがハディ暫定政権を、イランはシーア派武装組織フーシを、UAEは分離派「南部暫定評議会」(STC)を支援するという三つ巴の代理戦争が行われている状況だ。戦乱により清潔な水が使用できなくなり、毎年10万人以上がコレラに感染し、多くの命が失われている。
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