「夢を諦めない」という言葉が大嫌い

為末大 元プロ陸上選手の好き嫌い(下)

アスリートは「全力を出すこと」が好き

楠木:ちなみに、為末さんはおカネは好きですか。

為末:好きです。

楠木:僕も好きです(笑)。食べることが好きなので、自分が食べたいと思った物を経済的な制約がなく食べたいので、それができるくらいのおカネは持っていたいのです。おカネは好きなのだけれども、一応、自分なりの基準がある。

為末:僕もそんな感じかもしれません。陸上をやっていたせいか、スコアを目標にしていましたので、おカネの数字が好きというより、成果が測れる基準と意味で好きですね。

楠木:そういう具体的な基準がないから、夢はダメなのです。夢は具体や実体がなくてもいい。でも、目標となると、はっきりと評価ができる数字や具体的な実質が必要になる。成果は具体的にしか存在しませんよね。そうした具体的な目標を設定することで、初めてリアリティが出て、自分の問題として突き詰めて考えることが可能になる。特に、仕事に関しては突き詰めて考えることが必要で、それを積み重ねることで、向き不向きといったことがわかってくる――。

なんか、おっさんのグチみたいになってしまいましたが(笑)、「勝てないのは努力が足りないからじゃない」という、為末さんの名フレーズに、あえて僕の言葉を付け加えるならば、「だから、好きなことをやりましょう」。為末さんとの対談で、この意はますます強くなりました。今後、為末さんはどんな活動を予定していますか。

為末:現在、アスリートのセカンドキャリアを支援する活動をしていますが、アスリートの起業家を世に送り出したいと考えています。スポーツをするとすばらしいことが学べる、といったことがよく言われますが、そのわりには起業家として大成した人はいません。オリンピックに出たアスリートは600人くらいいますが、その0.5%くらいは一時期テレビには出ることはできます。でも、セカンドキャリアを支えるほどではなく、教育関係の仕事に就く人が99%以上です。ただ、一度は競技の道を上り詰めた人たちなので、きちんとしたやり方がわかれば、企業でもNPOでもアントレプレナーとして実績を残せると思うのです。そういう人が世に出て価値を提供できるようなお手伝いがしたい。

楠木:具体的に何か進んでいることなどはありますか。

為末:すでに、トップ選手を育てる会社を立ち上げたり、さまざまな地域に健康のためのスポーツのクラブを作ったりしている人が2~3人出てきています。東京オリンピックまでに20~30人くらい送り出せればと思っています。みんなでというよりも、それぞれの個が組織を率いていくイメージです。そういう人たちが増えれば、結果的にアスリートにあこがれる人も増えてくると考えています。

楠木:お話を聞いていると、やっぱりアスリートというのは、全力を出すことが好きなのですね。

為末:行くところまでいかないと気が済まない、納得できない、という人は多いでしょうね。全力を出し切るのは好きだと思います。

楠木:そこは僕と違いますね。僕、全力を出すのがダメなのです。結局のところ、世の中9割のことはうまくいきませんよね。だから僕は言い訳が欲しい。物事がうまくいかなかったとき、「いや、俺、全力出してないから」という言い訳が大好き(笑)。これは好き嫌いというよりも、端から見れば僕の人間的な欠点です。だから、今のようなゆるゆる考えるという仕事を選んでいるわけで、アスリートを選ばなかった。諦める力(笑)。普通だと、「努力で欠点を克服しろ!」となるんですが、人間、誰しも欠点のその裏に最大の強みがあると思っています。その人の欠点や不得手こそ、最大の強みで得意なこと。同じコインの両面をどちらから見るかだけの違いだと思っています。これからは、「勝てないのは努力が足りないからじゃない」と、全力を出し切るのが好きな為末さんも言っているよと、事あるごとに引用させていただきます(笑)。

(構成:松岡賢治、撮影:梅谷秀司)

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