ガーナで名誉酋長になった日本人が築いた信頼 チョコの原料カカオ産地を15年にわたって支援

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井戸を囲む笑顔の子どたち。明治は2020年までに10基の井戸を寄贈した。どの村でも井戸はとても喜ばれている(写真:明治)

任命式で、土居さんは村に井戸をもたらしたことを感謝され、アセラワディ村のチーフから「開発担当酋長」に任命された。酋長の正装であるガーナの色鮮やかな伝統衣装、ケンテを授けられ、酋長であることを示す、金細工入りブレスレットや指輪を受け取った。また、生きた山羊を1頭、与えられたという。「ガーナで山羊は、セレモニーには欠かせない大切な動物なんです。私は村人に胴上げされ、村に貢献してくれてありがとう、今日からあなたは酋長だ、といわれました」。

ガーナでは、歴史的に部族が独立した王国を営んできたことから、伝統的首長制が色濃く残っている。どの町や村にもチーフ(現地ではナナといわれ、日本語では酋長、首長と訳されることが多い)とよばれるリーダーが存在し、政治的には中立の立場だが、コミュニティで絶大な影響力を持つ。世襲制ではなく一族から優れた人材が選ばれ、中でもガーナ第2の都市クマシを拠点とするアシャンテ州の「アシャンテ・ヘネ」は、ナナの頂点に立つ存在で、大統領以上に尊敬している国民も多いという。

そんなガーナでは、名誉酋長である土居さんの存在は別格だ。日本では、明治の技術部の専任部長として働く土居さんだが、村のパレスでは必ず酋長のための玉座に座り、気軽に直接話しかけることは、許されない。暑い国なので、時にはハンカチで風を送ってくれる人がそばについてくれることもある。

苗木を買う余裕のある農家は少ない

しかし同時に、酋長としての責任は大きく、村を治める立場として、住民の声にしっかり耳を傾ける。土居さんは、村で収穫されたカカオ豆を、農家支援費用を上乗せして買う仕組みを会社として導入し、2009年にはマラリアを防ぐための蚊帳を各家庭に寄付した。

「継続的に行っているカカオの苗木配布も喜ばれています。なぜなら村は、日本のようにモノが必要でも買いたいときに買える環境ではないんです。ホームセンターも苗木ショップもありません。そもそも苗木を買う余裕のある農家は少ないと思います」。ガーナの中心部から離れたカカオ産地では、電気も水道も通っていないエリアがまだまだ多い。

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