29歳棋士「えりりん」全てを将棋に捧ぐ情熱人生 「常に勝ちたい」そして「将棋を普及したい」

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現在の山口さんは、解説している棋士の先生をドンとタックルしてしまうなど、一味違う言動で人気が高い。

ただ自分が人気者になりたいという感情は全然ないという。

「自分が目立つより、対局者と解説者のいい部分を引き出したいと思っています。とくに解説者については、人柄を紹介したいと思っています」

将棋の勉強方法も時代とともに変わってきている。

「人気者になりたいという感情は全然ない」という

かつては、強い人と将棋を指すためには、強い人に対局を了解してもらわなければならなかった。それにはコミュニケーション能力が必須だ。

だが今はフリーソフトのインターネット将棋道場を使えば誰でも匿名で将棋を指せる環境だ。そして自分が指した手が、いい手か悪い手かも解析してくれる。

「機械が使える人と使えない人では、差がつくかもですが、男女差や年齢差で不利になることは減ってきていると思います。そういう平等になった世界線で、将棋を指せるというのは楽しいですね」

山口さんが女流棋士をやり続けるうえで、「つねに勝ちたい」という気持ちと同じくらい大事にしているのは「将棋を普及したい」という気持ちだ。

多くの人に将棋の楽しさを知ってもらいたいと思っている。

「自分の話を聞いてもらうためにまずは勝つ」

「『将棋は難しい。頭がよくないとできない』と言われてしまうのは残念です。難しく感じるのは、難しくやっているからなんですね。発売されている将棋の本も上級者向けのものが多いです。現在は藤井聡太さんの活躍で、将棋に注目が集まっているから今がチャンスだと思っています。

ただ、同じことを言っても、トップの人と、勝てない人が言うのでは全然違います。自分の話を聞いてもらうためには、まずは勝たなければなりません。普及を効率よくするためには、強くならなければならないんですね。

女流棋士って、本当は将棋がとても強いのにあまり知られていません。将棋番組で棋士の横にいる人、くらいのイメージしかないと思います。『山口恵梨子(えりりん)の女流棋士の日々』では、女流棋士がどういう職業なのかわかりやすく描きました。軽い気持ちで読んでもらえたらうれしいです」

山口さんは、会話の途中で、

「私って流されがちなんですよね。ブレブレです」

と少し自嘲気味に笑った。

しかし話を聞いていると、ブレブレどころか、恐ろしくしっかりしている人だと思った。小学生時代に自分の生きる道をハッキリ決め、自分の活動のリソースをしっかり分配するなんて、誰にでもできることではないだろう。

プロ棋士は、人生の密度がとても濃いのだなと驚かされた。

村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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