現在の山口さんは、解説している棋士の先生をドンとタックルしてしまうなど、一味違う言動で人気が高い。
ただ自分が人気者になりたいという感情は全然ないという。
「自分が目立つより、対局者と解説者のいい部分を引き出したいと思っています。とくに解説者については、人柄を紹介したいと思っています」
将棋の勉強方法も時代とともに変わってきている。
かつては、強い人と将棋を指すためには、強い人に対局を了解してもらわなければならなかった。それにはコミュニケーション能力が必須だ。
だが今はフリーソフトのインターネット将棋道場を使えば誰でも匿名で将棋を指せる環境だ。そして自分が指した手が、いい手か悪い手かも解析してくれる。
「機械が使える人と使えない人では、差がつくかもですが、男女差や年齢差で不利になることは減ってきていると思います。そういう平等になった世界線で、将棋を指せるというのは楽しいですね」
山口さんが女流棋士をやり続けるうえで、「つねに勝ちたい」という気持ちと同じくらい大事にしているのは「将棋を普及したい」という気持ちだ。
多くの人に将棋の楽しさを知ってもらいたいと思っている。
「自分の話を聞いてもらうためにまずは勝つ」
「『将棋は難しい。頭がよくないとできない』と言われてしまうのは残念です。難しく感じるのは、難しくやっているからなんですね。発売されている将棋の本も上級者向けのものが多いです。現在は藤井聡太さんの活躍で、将棋に注目が集まっているから今がチャンスだと思っています。
ただ、同じことを言っても、トップの人と、勝てない人が言うのでは全然違います。自分の話を聞いてもらうためには、まずは勝たなければなりません。普及を効率よくするためには、強くならなければならないんですね。
女流棋士って、本当は将棋がとても強いのにあまり知られていません。将棋番組で棋士の横にいる人、くらいのイメージしかないと思います。『山口恵梨子(えりりん)の女流棋士の日々』では、女流棋士がどういう職業なのかわかりやすく描きました。軽い気持ちで読んでもらえたらうれしいです」
山口さんは、会話の途中で、
「私って流されがちなんですよね。ブレブレです」
と少し自嘲気味に笑った。
しかし話を聞いていると、ブレブレどころか、恐ろしくしっかりしている人だと思った。小学生時代に自分の生きる道をハッキリ決め、自分の活動のリソースをしっかり分配するなんて、誰にでもできることではないだろう。
プロ棋士は、人生の密度がとても濃いのだなと驚かされた。
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