29歳棋士「えりりん」全てを将棋に捧ぐ情熱人生 「常に勝ちたい」そして「将棋を普及したい」

✎ 1〜 ✎ 90 ✎ 91 ✎ 92 ✎ 最新
拡大
縮小

現在の山口さんは、解説している棋士の先生をドンとタックルしてしまうなど、一味違う言動で人気が高い。

ただ自分が人気者になりたいという感情は全然ないという。

「自分が目立つより、対局者と解説者のいい部分を引き出したいと思っています。とくに解説者については、人柄を紹介したいと思っています」

将棋の勉強方法も時代とともに変わってきている。

「人気者になりたいという感情は全然ない」という

かつては、強い人と将棋を指すためには、強い人に対局を了解してもらわなければならなかった。それにはコミュニケーション能力が必須だ。

だが今はフリーソフトのインターネット将棋道場を使えば誰でも匿名で将棋を指せる環境だ。そして自分が指した手が、いい手か悪い手かも解析してくれる。

「機械が使える人と使えない人では、差がつくかもですが、男女差や年齢差で不利になることは減ってきていると思います。そういう平等になった世界線で、将棋を指せるというのは楽しいですね」

山口さんが女流棋士をやり続けるうえで、「つねに勝ちたい」という気持ちと同じくらい大事にしているのは「将棋を普及したい」という気持ちだ。

多くの人に将棋の楽しさを知ってもらいたいと思っている。

「自分の話を聞いてもらうためにまずは勝つ」

「『将棋は難しい。頭がよくないとできない』と言われてしまうのは残念です。難しく感じるのは、難しくやっているからなんですね。発売されている将棋の本も上級者向けのものが多いです。現在は藤井聡太さんの活躍で、将棋に注目が集まっているから今がチャンスだと思っています。

ただ、同じことを言っても、トップの人と、勝てない人が言うのでは全然違います。自分の話を聞いてもらうためには、まずは勝たなければなりません。普及を効率よくするためには、強くならなければならないんですね。

女流棋士って、本当は将棋がとても強いのにあまり知られていません。将棋番組で棋士の横にいる人、くらいのイメージしかないと思います。『山口恵梨子(えりりん)の女流棋士の日々』では、女流棋士がどういう職業なのかわかりやすく描きました。軽い気持ちで読んでもらえたらうれしいです」

山口さんは、会話の途中で、

「私って流されがちなんですよね。ブレブレです」

と少し自嘲気味に笑った。

しかし話を聞いていると、ブレブレどころか、恐ろしくしっかりしている人だと思った。小学生時代に自分の生きる道をハッキリ決め、自分の活動のリソースをしっかり分配するなんて、誰にでもできることではないだろう。

プロ棋士は、人生の密度がとても濃いのだなと驚かされた。

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本製鉄、あえて「高炉の新設」を選択した事情
日本製鉄、あえて「高炉の新設」を選択した事情
ヤマト、EC宅配増でも連続減益の悩ましい事情
ヤマト、EC宅配増でも連続減益の悩ましい事情
倒産急増か「外食ゾンビ企業」がついに迎える危機
倒産急増か「外食ゾンビ企業」がついに迎える危機
Netflixが日本での「アニメ製作」を減らす事情
Netflixが日本での「アニメ製作」を減らす事情
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
  • 新刊
  • ランキング
東洋経済education×ICT