社内版「論語と算盤」を作成する清水建設、使命感を全社で問い直す《ものすごい社員教育》
日本の資本市場の父とされる渋沢栄一は、みずほフィナンシャルグループのルーツである第一国立銀行や日本興業銀行、日本郵船、王子製紙など明治以降に発展を遂げた事業会社の発祥に深く関与したことで知られる。その数500社前後。
清水建設(当時は清水店)は、そのうちの1社だ。第一国立銀行頭取だった渋沢は、1887年に清水店の相談役に就き、今も脈々と受け継がれる経営理念と営業方針に決定的な影響を残した。
横浜の下水道工事による多額出費と、先代の急逝によって経営危機に瀕していた当時の清水建設。渋沢は、先代のおいっ子で29歳と若い原林之助を支配人に抜擢し、民間建築に軸足を置いた営業方針を進言した。
原は、渋沢が書き記した経営訓話集である『論語と算盤』を教えとし、金儲け優先ではなく、武士道に通じる正直さと親切さ、顧客第一をモットーに掲げた。
具体的には、営業規則制定や工事マニュアル整備、店員教育など人事システムの近代化に力を注ぎ、これらの成果で営業網は全国に拡大、早期に経営の立て直しを図ることに成功した。
その後の清水建設は、『論語と算盤』それ自体を、人間尊重をうたう経営理念の上位概念として位置づけ、入社前のリポートや、キャリア研修における教材として、連綿と継承し、活用してきた。
原が制定した工事マニュアルや教育研修プログラムも、長い年月をかけて拡充。現在ではe‐ラーニングや、社長訓話のDVD版などデジタル時代に対応した工夫が施され、従業員1万人超の大企業でありながら、きめ細かくカリキュラムが制度設計されている。
従来プログラムに限界 世代間ギャップが課題
ただ、最近になって新たに発生した課題もある。清水建設に入社する若手層が抱く仕事への使命感や、上司や取引先との接し方など、従来であれば“常識”だったものが、通用しなくなってきた。つまり、これまで人事部がお膳立てしてきた教育研修プログラムでは対処しきれない問題に直面したのだ。