「死について考えない」日本人を待つ壮絶な最期 過剰な医療が患者の穏やかな死を阻んでいる
例えば映画でも出てきましたが、末期の肺がん患者さんの場合はとくに、1日500ml以上の点滴をしなければ、せきやたんで苦しむこともなく酸素も必要ありません。
病院では終末期の患者さんにも毎日約2リットルの高カロリー点滴を行うことが普通になされています。でもそうすると、胸水や腹水がたまって苦しくベッドの中で溺れたような状態になる。だから今度は胸水や腹水を抜いたり、酸素吸入、鎮静となる。するとせきやたんが出て眠れない。
その結果、鎮静剤投与のような、本来は必要がないような介入が起きてしまうことがあります。つまり過剰な医療こそが、鎮静をせざるをえない要因になっているのです。
私自身、勤務医だった35年前、同じことを終末期の患者さん全員にしていました。苦しむ患者さんを楽にしたいと思って。でも実際は逆でした。患者さんを苦しめていたのは、がんではなく私自身が指示した点滴でした。枯れていくことを見守り、待つことさえできたら鎮静は必要ないのです。
平穏に死ぬとは何か
──映画では柄本佑さん演じる若い在宅医が、患者を苦しませて死なせてしまうというシーンがありました。家で穏やかに最期を迎えたいという希望が本人や家族にあっても、それがかなわないこともあるということですか。
残念ながら、在宅で看取りを希望しても、必ず穏やかな最期を迎えられるかというとそうではありません。長く在宅医療をやっていらっしゃる先生ならきっと問題ないでしょうが、病院の医療をそのまま在宅に持ち込むことが在宅医療だと思っている医師も最近は増えています。そうすると病院と同じで、すごく苦しんで死にます。
柄本さん演じる若い医師のエピソードは、実話です。東京にお住まいだったある40代の女性から、「長尾先生の平穏死に関する本を読んで、在宅医療なら父親を穏やかに見送れると思って病院から連れて帰ってきたのに、とても苦しみながら死なせてしまった。私が父を殺した。在宅医療なんて選ぶんじゃなかった!」とクレームを受けたのです。
その女性と私が直接お会いして、一体、何がいけなかったのか実際のやりとりを記録したのが、この映画の原作となった『痛い在宅医』という本なのです。
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