日本の大企業はなぜ「脱炭素」こうも嫌がるのか 脱炭素に積極的な企業と経団連の間にある溝

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同報告書は、経団連の政策決定や経産省のエネルギー諮問委員会の委員を務めている企業は、化石燃料と原子力に関連した一部のセクターにかぎられてると指摘。一方、長谷川理事は、経団連の会長と17人の副会長は異業種出身で「バランスが取れている」とし、インフルエンスマップの報告書を不正確だとしている。

石炭火力発電所を作ったり、炭鉱に投資したり、石炭プロジェクトに出資したりしている企業の出身者が多い理由を聞くと、これらの企業は再生可能エネルギーにも投資していると答えた。

2030年の目標すらない経産省

経済産業省については、菅首相の演説から2カ月後に発表された「グリーン成長」のアジェンダを検討すればわかる。2030年の目標は設定せず、また2050年の目標を、再生可能エネルギー60%、残りの40%を原子力、CCS装置付き石炭、そして水素で発電するとした。

IEAを含む多くの専門家が、ネットゼロを達成するには、現在稼働していない原子力発電所の再稼働が必要だと考えているが、東京電力による管理ミスと経産省の監督が不十分であったために起きた2011年の福島第一原発事故により、原子力発電所は有権者に受け入れられないものとなった。

経産省は、2030年代半ばまでにガソリン車をゼロにするとしているが、ガソリン車の中にハイブリッド車を含めていない。日本の炭素排出量を2030年までに9億3000万トンに削減することを目標としているが、これは2018年に設定された受け入れ難い低い目標と変わらない。これに対し、REIは、日本が2050年までにネットゼロを達成するためには、まず2030年までに排出量を6億5000万トンまで削減する必要があるとしている。

経産省の消極的な姿勢を変えて行くためには、菅首相自身の手腕が欠かせない。菅首相は安倍晋三前首相の官房長官時代、高級官僚600人を承認するだけでなく、解雇する権限を含め、エリート官僚に対する前例のないほどの力を与える改革を行っている。

2050年までにネットゼロを公約にするという考えは当初、アメリカのジョー・バイデン大統領選挙勝利を予想して、安倍前首相が発表する予定だったが、健康上の理由で発表を待たずに辞任することとなった。安倍前首相はしばしば高尚な目標を発表しながら、それを達成するための戦略をほとんど練らなかった。

経済問題については、菅首相のほうが断固とした態度をとるが、残念ながら支持率が非常に低い。菅首相が秋までに退陣することを考慮しているとすると、抵抗する官僚に対して、自らの政策を押し通すことができるだろうか。 6 月に予定されている新しい戦略的エネルギー計画について、経産省に助言を行っている企業が、JCIに参加する企業をより多く含むかどうかが1つの兆候となるだろう。

気候変動に対する積極的な変革に対する企業の抵抗は、今日始まったことではない。これまでになかったことは、堅牢な対策の採択を目指して、強力な企業ロビー活動が行われていることである。発表された目標が効果的な行動につながるかどうかは、両派のパワーバランスが重要となるだろう。

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。著書に『The Contest for Japan's Economic Future: Entrepreneurs vs. Corporate Giants 』(日本語翻訳版発売予定)

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