日本の大企業はなぜ「脱炭素」こうも嫌がるのか 脱炭素に積極的な企業と経団連の間にある溝

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経団連は、2050年のネットゼロを価値ある目標として支持する一方で、その目標達成のために専門家が必要とする多くの対策に反対している。

例えば菅首相は、現在、日本の総発電量の31%の燃料として使用される石炭を段階的に削減したい考えだが、経団連は、信頼性の高い蓄電池や水素燃料のような新技術が開発されるまでは、石炭が必要だとしている。

「エネルギーの安全保障上、少なくとも短期的には、日本は石炭を含む多様なエネルギー源を保有する必要性がある」と、経団連の長谷川雅巳理事は主張。経団連は「クリーンコール」実現のための二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術の開発も支援している。

他国でも行われているように、石炭火力発電所の燃料を天然ガスに置き換えることで、各発電所の排出量を半減させることができるが、長谷川理事は、1月に一時的に発生したように、LNGへの依存度が高すぎると、貯蔵の問題で日本は定期的に電力不足に陥る可能性があるとしている。

経団連はまた、水素燃料やCCSのような革命的な技術を開発するために必要な資金を企業から奪うことになるとして、炭素税にも反対している。残念ながら、国際エネルギー機関(IEA)による2020年の報告書では、こうした先端技術が大規模に商業的に実現可能になるまでには、あと20~30年かかるとされている。それを待つことは、失敗を意味する。

経団連のアプローチに感じる矛盾

現在の技術で排出量を削減する方法はたくさんある。日本の鉄鋼は、日本の総炭素排出量の約10%を占めている。その理由は、アメリカではすでに3分の1程度にもかかわらず、日本ではいまだに粗鋼生産量の8割が石炭火力高炉で製造されているからである。日本の住宅の35%が断熱材を使用していないというのも、驚きのほかない。

日産自動車は2010年にカルロス・ゴーン前会長のもとで、2020年まで世界で最も売れている電気自動車(EV)「リーフ」を発売したが、トヨタはハイブリッド車や水素燃料電池車に力を入れ、こだわりを見せている。水素自動車はほとんど売れていない。トヨタは、「EVを製造すればするほど、二酸化炭素排出量は悪化する」とまで主張している。

「インフルエンスマップ(InfluenceMap)」の2020年の報告書によると、経団連はビジネスの代弁者であると主張するが、そのアプローチは実際には日本の大多数の企業の利益と矛盾している。報告書によると、株式市場の上位100社の中で、十分な量が利用可能であれば、61%の企業が再生可能エネルギー源で発電した電力を購入したいと望んでいる。

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