『ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ』--信頼と市場の原理《宿輪純一のシネマ経済学》

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 さらに撹乱要因として、決勝進出者の中に「プレイヤーX」という刺客が身を潜めているのである。ばか正直ともいわれる主人公の女子大生の直(戸田恵梨香)は、ゲーム開始早々、信頼の証しである真実の赤リンゴを投票し続ける事を提案する。しかし、当然のことながら、裏切りが相次ぎ混乱が始まる。
 
 この事象は、経済学や心理学における「囚人のジレンマ」という事例とまさに似ている。個々の最適な選択が、全体として最適な選択とはならない状況としてよく使用される。2人の囚人がいて、片方が裏切って自白したら本人は1年に減刑、もう1人は刑が15年になる。ともに裏切ると、ともに10年。ともに黙秘した場合はともに2年、という条件である。相談はできない。

互いに裏切りあって長年の刑を受けるよりは、互いに信頼して協調し2年の刑を受けるほうが2人全体とすると得である。しかし囚人達が自分の利益のみを追求しているかぎり、互いに裏切り合うという結末を迎えることになる。

なぜなら相手が協調しようが裏切ろうが、相手に依存するのではなく裏切ったほうが、2人の刑期を極少化させるからである。ぎりぎりの時には相手を信用できなくなるのである。

“個人”が自分にとって「最適な選択」(裏切り)をすることと、“全体”として「最適な選択」をすることが、同時に達成できないことがジレンマなのである。
 
 現実の経済でも、囚人のジレンマの事例は結構あり、代表的なものは、商品の値引き競争である。相手の会社と自社で両方とも値下げをやめれば、全体として利益を享受できるにもかかわらず、相手企業が先に値下げして、収益とシェアが奪われることに耐え切れず、値下げ合戦をして全体としての利益を減少させる。環境問題なども、同じくこれに当たるといわれている。

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