アメリカに建つ「バベルの塔」が崩壊するとき 今の現象を「バブル」と呼ぶのはふさわしくない

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トランプ氏が大衆を魅了する能力は、あのアドルフ・ヒトラーに匹敵するとまで言う評論家も少なくない。

だが、筆者に言わせれば、トランプ氏は自分がアメリカの生活のなかでみてきた直近4人の大統領と比較しても、少なくとも人を殺すことを最も嫌った大統領だった。その点ではヒトラーから最も離れている。実際、ビル・クリントン氏はユーゴ紛争に関与した。イラク戦争にのめりこんだジョージ・W・ブッシュ氏は言うに及ばず。オバマ氏も「アラブの春」に関連、リビアで結果的にかなりの被害を出している。

捨て身で「カウンター」ができるトランプ氏

筆者はトランプ氏個人の研究については、過去の記事でも度々触れたように金融業務に携わってきた過程で、彼が大統領になる20年以上も前からやってきた。直前に「人殺しからは縁遠い」とは言ったものの、ヒトラー研究の専門家の話を聞くと、確かにトランプ氏にはヒトラーと似たような才能があるようにも思える。

どういうことか。ヒトラーが「皆が知っているあのヒトラー」になっていく過程で印象に残る逸話がある。「ミュンヘン一揆」のあと、まだそこら辺の「演説がうまいゴロツキの一人」にすぎなかったヒトラーは、裁判で皆が無罪を主張し減刑を乞うなか、一人だけ「(もし第1次世界大戦の敗北で)ドイツがここまで辱められることを受け入れるのがワイマール共和国なら、私はその国家への反逆罪で有罪だ」と、裁判で堂々と言い切ったという。

まず、このことがまさに裁判官の共感を呼んだ。巷でも、庶民の心の中に溜まっていた社会への不満を代弁する者として、ヒトラーが一気に独裁への階段を駆け上がっていく最初の転換点になったという。これは、筆者が紹介してきた「4thターニング論」で著名な二ール・ハウ氏が指摘している。なるほど、この逆境での捨て身のカウンターパンチは、確かにトランプ氏が最も得意とするところだ。そしてこのようなふるまいは、エリートには絶対にできない。 

さらにエリートがトランプ氏を恐れる理由は、クリントン時代から直近のオバマ政権まで、今の格差が拡大した社会そのものにある。彼らはその責任までトランプ氏に押し付けて、知らぬ顔をしている。

ただヒトラーとナチスは一気に頂点に上り詰めたのではないことを想起すべきだろう。勢力が拡大する過程で、彼らは選挙で何度か「ライバル」の共産党に先を越されている。理由は、当時、失業や貧困でふんまんやるかたないドイツの若者などが、共産主義の魅力に負けたからだ。

だがヒトラーは何度も持ち前の「聴衆を魅了する力」と「共産主義勢力の拡大を恐れる保守層と財界の思惑」を見事なまでに自分のためにを取り込んだ。そして極めつけは、国会議事堂の火災を共産主義勢力のせいにしたことだ。これで独裁の道が開けた。先日「トランプ氏のデモの呼びかけ」で結果的に起きたワシントンの議事堂での惨劇は、トランプ氏をヒトラーの再来と恐れ、永遠に封じ込めることを狙った勢力が関係しているのでは――。アメリカではこうした「陰謀論」が根強くあるのも事実である。

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