アメリカに建つ「バベルの塔」が崩壊するとき 今の現象を「バブル」と呼ぶのはふさわしくない

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今、世界の格差は途方もなく開いた。その解消策として、エリートは「社会主義政策」を導入、格差是正の模索を始めた。2017年に出たウォルター・シャイデル氏の『GREAT LEVELER』(邦題『暴力と不平等の人類史』)によると、格差の解消には以下の4つしかない。

すなわち、第2次世界大戦のような「大戦争」か、フランス革命のような「革命」か、ローマ帝国で起きた社会の「崩壊」か、ペストの大流行のような「疫病」である。

筆者はこの本の趣旨には賛同しない。なぜならその4つを経ても、結局
のところ、まったくといっていいほど変わらない格差は、世界にいくらでも存在するからだ。

だが、仮に選択肢がこの4つしかないとしたら、グローバルエリートはどれを選ぶか。最初の3つは「格差そのもの」が遠因になっている。これが起きるとそもそも自分たちの優位性が危うくなる。

では最後の4つめの疫病はどうか。不思議なことに、コロナ禍で、金融システムを構成するグローバルエリート(中央銀行やIMFなど)は皆、同じことを言った。「コロナは『リーマン(ショックのとき)』と違い、誰も悪くない。だから、コロナ禍では、どんな社会主義的な政策も許される。われわれは躊躇しない」だった。その結果なのか、株式を中心とした金融市場は急騰を続けている。

今は「バブル」ではなく「バベル」

今は、バブル論が花盛りだ。だが、筆者に言わせれば、今は過去のどのバブルとも違う。今起きているのは「バブル」ではなく「バベル(の塔)」(旧約聖書の創世記にある伝説の塔)状態ではないか。

もし、このバベルが神と同等の力を持ち、天空に「理想郷」ができる前に、何らかの作用で崩壊すればどうなるか。恐らくそれはリーマンショックや1929年の大恐慌など比較にならない事態になるかもしれない。

では、その時に資産を失う多くの人々の怒りはどうなるか。その時にヒトラーのような人間がいることは危険である。エリートはそのリスクを知っている。だがら金融システムのエリートは、細心の注意を払っている。

だからと言って、政治やメディアが敵対勢力の言論や表現の自由を奪い「トランプ的なモノ」、そして「その仲間」をすべて抹殺するような「ナラテイブ」(ストーリー)をまことしやかに語ることが許されるのだろうか。

筆者はここに最大のリスクを感じる。次回以降、もし機会があれば、第1次世界大戦への参戦を正当化しなければならなかったウッドロー・ウイルソン大統領と、彼が政権内に作った政府の広報機関である「広報委員会」
CPI(Committee on Public Information)を紹介したい。

そこでは、統括責任者だったジョージ・クリール(George Creel)氏は
政府の方針として「フェイクニュース」を流し、国民の恐怖をあおり、徴兵を事実上正当化した。このとき、自分たちのニュースは「善のアドバタイズメント(広報)」、一方で敵の情報戦は「悪のプロパガンダ(宣伝)」と断罪した、とされる。まるで、今とそっくりではないか。

滝澤 伯文 CME・CBOTストラテジスト

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たきざわ おさふみ / Osahumi Takizawa

アメリカ・シカゴ在住。1988年日興證券入社後、1993年日興インターナショナルシカゴ、1997年日興インターナショナルNY本社勤務。その後、1999年米国CITIグループNY本社へ転籍。傘下のソロモンスミスバーニーシカゴに転勤。CBOTの会員に復帰。2002年CITI退社後、オコーナー社、FORTIS(現在のABNアムロ)、HFT最大手Knight証券を経て現在はWEDBUSH傘下で、米国の金融市場、ならびに米国の政治動向を日系大手金融機関と大手ヘッジファンドに提供。市場商品での専門は、米国債先物・オプション 米株先物 VIXなど、シカゴの先物市場商品全般。

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