現代美術の鬼才「アートへの金欲」を拒まない訳 アーティスト・会田誠、市場原理に感じる正直さ

拡大
縮小
『紐育空爆之図(にゅうようくくうばくのず)』(戦争画RETURNS)1996 襖、蝶番、日本経済新聞、ホログラムペーパーにプリント・アウトしたCGを白黒コピー、 チャコールペン、水彩絵具、アクリル絵具、油性マーカー、事務用修正ホワイト、鉛筆、その他(六曲一隻屏風) 174×382cm 零戦CG制作:松橋睦生 高橋コレクション 撮影:長塚秀人 (c) AIDA Makoto Courtesy of Mizuma Art Gallery
美少女、サラリーマン、戦争、国際政治――。多様な題材と表現手法で世の中を風刺してきた現代アーティストの鬼才・会田誠。緩和マネーの流入を追い風に活況を呈し、投機的な売買の対象にすらなっている現代アートのマーケットの現状は、彼にどう見えているのだろうか。

市場には負の側面だけでなくよさも

――会田さんはどのような立ち位置の現代アーティストだと自覚していますか。

現代アートの作家は、大きく2種類に分けられる。1つが、アートマーケットを主戦場としている人々。日本人の作家でいえば、ニューヨークのギャラリーに所属してコレクターなどに作品を販売している、村上隆さんなどはその典型だ。

その対極にあるのが、例えば「ソーシャリー・エンゲージド・アート」というジャンルに属する作家。絵画や彫刻を作って市場で売るというよりは、市民と一緒にワークショップを開いて何らかの社会変革をもたらそうとするアーティストだ。

彼らの活躍の場は、世界中で開かれる芸術祭。ベネチア・ビエンナーレ、ドイツのドクメンタ、日本ならばあいちトリエンナーレといったものだ。著名な芸術祭に選出されれば、それなりにアーティスト・フィーがもらえる。お金儲けのために大切な制作時間を使わず、社会的に意義あることをしよう、というのが彼らのスタンスだ。

僕がどちら側の人間かというと、コマーシャル・ギャラリーに属しているという意味ではマーケット側の作家だ。とはいえ、ここにどっぷりつかっていたいとは思わず、ビエンナーレ的な美術とのつながりもある。

――芸術に価値をつけて売買するアート市場。会田さんが属している現代アートの分野では、買ったアートをオークションで売って利ザヤを得る投資目的のコレクターも存在します。マーケットは、作家にとっては善・悪どちらの存在なのですか。

作家の中には、社会的な善行をするアートこそがよいものであり、アート市場は悪である、と断言する人もいる。僕も、市場には明確に負の側面があると思うが、一方でよさもあると思いながら付き合っている。

基本的に、コレクターもギャラリーも金の欲で動いている。多くのギャラリーが出展する国際的なアートフェアに行くと、露骨に「欲望の渦」のようなものを感じる。ただ、ここにはある種の正直さがある。

この記事の続きは東洋経済プラスで無料でお読みいただけます。
印南 志帆 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT