仕事で「腰痛になる人」「ならない人」の境界線 東大教授と健康経営のプロの「体にいい」対談
平井:職場のストレスチェックの結果と腰痛の相関を見たら、何かわかることがあるかもしれませんね。ただ、そうすると社員も正直に自分の健康状態を答えづらくなるかも……。
――腰痛だといったら「職場に不満があるのか」と責められる?
平井:そう(笑)。「過度なストレスを感じている人には腰痛の傾向がある」なんてこともわかるかもしれません。ワークパフォーマンスを発揮できている人とそうでない人の違いなど、ストレスチェックの結果と腰痛の関係などもわかってきたら、健康経営的には興味深そうです。
腰痛は「動いて治す」時代
松平:腰痛が難しいのは、本当に「多要因」だということです。腰の負担に、ストレスに伴う脳機能の不具合。運動不足も腰痛の原因の1つです。「腰痛のときは安静に」と言われがちですが、近年の私たちの研究ではギックリ腰で痛みがきついときでさえ、安静にしているよりできる範囲で身体を動かしたほうが治りが早いこともわかっています。
ところが、運動しすぎて腰痛が出るパターンもあるんです。猫背だったり、反り腰だったり、腰に負担のかかる姿勢で歩くとかえってよくありません。
そう考えると、同じ人が複数の原因を抱えている可能性もあるわけです。例えば、午前中はテレワーク中の悪い姿勢からくる腰痛。午後は妻とケンカしたストレスによる腰痛、夕方はウォーキング中の反り腰による腰痛と、同じ人が1日3パターンの腰痛をきたしてもおかしくない。そもそも、これら全部を「腰痛」という1つの病気として扱うのも無理があります。治療も、ストレスからくる腰痛はこう、歩き方からくる腰痛はこうと、個別に見ていかないと始まりません。本当に腰痛は手強い相手なんです。
平井:リモートワークを切り口に考えても、悪い姿勢で腰痛がひどくなっている人もいれば、オフィス環境や通勤に伴うストレスがなくなって腰痛が改善している人もいるかもしれませんね。松平先生のお話をうかがって思うのは、企業のなかで腰痛対策をするときも、その人の腰痛がどんなタイプなのか見極めるところから始めないといけない、ということです。それをしないまま一律の腰痛対策を行っても、効果が出ない。きっと、働く人たちそれぞれが、自分の腰痛がどこに分類されるのか、自己診断できるようになるのが理想なのでしょう。
松平:そのとおりだと思います。ただ、それが難しいからこそ腰痛に悩む人が減らないともいえる。最近私は、ビッグデータやAIの活用で、誰でも簡単に腰痛のアセスメントができ、その人にあったテーラーメイドの治療に誘導してもらえるアプリができたらと構想しているところです。腰痛治療というと「腰痛のときはボールでマッサージするといい」「動かず安静にしていれば治る」といった、個別性のない短絡的な議論に終始しがちですが、それもアセスメントがないからなんです。「腰痛リテラシー」が高まっていかない。