仕事で「腰痛になる人」「ならない人」の境界線 東大教授と健康経営のプロの「体にいい」対談
平井:ここ数年、テクノロジーの活用もあって一気に人々の「睡眠リテラシー」が高まりましたよね。少なくとも私の知る限りでは、睡眠の悩みを持つ人が減っていると感じます。同じように、テクノロジーの活用で腰痛リテラシーを高められる可能性はあると思います。自分の腰痛タイプを見極めて、適切なセルフケアができるようになれば、腰痛を減らしていけるかもしれません。
松平:たしかに。ただ「今、ギックリ腰がつらい」といった、まさに目の前の悩みを抱えている人以外は、なかなか腰のケアに関心を持たないものです。
どうすれば人の行動が変わるのか
平井:人々の行動変容を促す方法として、例えば「恐怖訴求」があります。「〇〇しないとこんなにひどいことになるよ」といういわゆる脅しですね。アメリカには、アメリカ歯周病学会による「フロス・オア・ダイ(floss or die)」というキャンペーンによって日々のオーラルケアへの意識を高め、フロス利用者を増やした、という事例があります。
もっとも、恐怖訴求ばかりだと仕方なくの行動になったり気分が暗くなってしまうかもしれません。DeNAはどちらかというと、腰痛に関する新しい知見を提供し、好奇心を刺激するようなポジティブな働きかけを心がけています。例えば、腰痛を防ぐ「正しい姿勢」を伝えるために、「頭の重さは体重の約10%、5キロのボウリング球ぐらいある。だから背骨の上に頭をきちんと乗せないといけない」というポスターをつくったところ、腰痛が改善したという人の声を多数聞くようになりました。
ビジネスパーソンに訴えるなら仕事の成果につなげることも大事です。「腰痛にいいから歩きなさい」「階段をのぼって運動不足を解消しましょう」といってもなかなか聞いてくれませんが、「脳が刺激されて新しい発想やアイデアが湧いてくる、血流がよくなってパフォーマンスが向上する」というと皆やってくれる。向上心の高い人には「シリコンバレーの有名起業家はこんなに熱心にセルフメンテナンスをしている」と見せるのも行動変容に繋がることがわかっています。
松平:先程もお話ししたように、これだけ医療が進化しているのに腰痛というのはまだまだ成長する可能性がある分野です。でも、だからこそ奥深い、仕事のしがいのある分野でもある。私は腰痛のタイプを見極め、個別にソリューションを提供する仕組みを整えていきたいと思います。
平井:DeNAも、健康経営を舞台に、腰痛リテラシーを高める取り組みを続けていくつもりです。
(構成:東雄介)
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