中国の「双循環」政策はドル安の要因になるのか 輸出に元高の影響が出れば容認できなくなる

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また、こうした品目別の議論は別にしても、新型コロナウイルスにいち早く倒れ、いち早く回復したという中国の立ち位置を踏まえ、世界経済が停滞する状況下、中国からの輸出に依存せざるをえない国が多数存在したという事情もあった。こうした一種の代替需要も特需を構成したと考えられる。だが、2021年に同様の特需を期待するのは難しいのだろう。

そもそも元高が輸出にまったく影響しないとは思えない。中国の輸出は元相場の動きに半年から1年程度遅れる格好で反応する傾向にある。経験則に倣えば、過去1年の元高はこれから輸出抑制に効いてくると見込まれる。そのような動きを目の当たりにしても「これからは内需主導に切り替える」という大義とともに元高を容認できるかどうかが注目点となる。

一朝一夕に内需主導型には変われない

筆者は「双循環」はあくまで外需と内需の双方が重要という話であり、過度な通貨高はやはり容認されないと考えている。もちろん、時間をかけて通貨高を受け入れられる体質に変わっていくことは十分考えられる。だが、昨年10月に内需主導の成長をうたったからと言って、一朝一夕に構造転換が図れるものだろうか。

昨年10月というタイミングでは中国人民銀行は人民元売りに対する規制を2年ぶりに撤廃し、日中基準値の設定に関しても逆周期因子(元安を抑止する運用措置)の見直しも発表されている。元高をまったく気にしないのであればこのような政策を取る必要はないはずである(もっともこの動きは五中全会以前の話ではあるが)。

慢性的な円高に苦しんできた日本でも「これからは内需主導だ」という掛け声が繰り返されてきた。しかし、すでに円安が輸出数量を増やさなくなった今でも円高恐怖症は拭えていない。トップダウンで為政者の意向を初志貫徹させやすい中国と日本を単純比較すべきではないが、元高容認にも限度はあるはずだ。

上述したように、米中対立がバイデン政権の下でもクローズアップされるような時間帯が増え、統計上、輸出の減速が確認されるようになれば、やはり人民元の上昇は牽制され、それ自体がドル高への巻き戻しを招く可能性があるのではないかと筆者は考えている。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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