中国の「双循環」政策はドル安の要因になるのか 輸出に元高の影響が出れば容認できなくなる
次に②の金利については、アメリカを中心として先進国経済が復調するに伴って名目金利が浮揚してくるというシナリオがあり、筆者も同意見だ。すでに米中10年金利差は昨年9月時点で2.5%ポイントまで広がっていたものが、足元では2%ポイント前後まで縮小しており金利面で人民元がドルよりも優位に立つという姿は薄れている。こうした構図は2021年を通じて一段と強まってくると考えたい。これも元高を抑制するだろう。
最後に①の実需要因に基づく元高も、②や③と同様、2021年は薄れていくと考えている。昨年10月、中国共産党の重要会議である第19期中央委員会第5回全体会議(五中全会)では、内需主導型発展モデルへの転換を目指す新政策「双循環(デュアル・サーキュレーション)」が全面に押し出され、「100年に1度の大変革期」がうたわれた。
「双循環」の「双」は内需と外需を指しており、互いを好循環させて高成長につなげる政策思想だとされる。この思想の発端は米中貿易摩擦を経て輸出主導型の成長モデルが危うくなったからだといわれているが、その本気度は元高に対する政策当局の動きで判断することになる。従前以上に内需を尊重するのであれば国内の購買力向上を企図して元高容認、さらには元高への誘導に舵を切るだろう。
2020年、中国の輸出好調は特需に支えられた
この点、昨年からの人民元の騰勢を見る限り、その変革が進められているように見える。しかし、内需主導を念頭に置いた「双循環」が本当に問われるのは元高で輸出が目に見えて減速し始めたときである。今のところ、元高によって外需が毀損する兆候は見られていない。2020年の中国の貿易黒字は5350億ドルと過去2番目の大きさを記録しており、輸出に至っては前年比3.6%増の2兆5906億ドルと過去最高だった。過去1年で元高の痛みを感じるにはまったく至っていないのが実情であろう。
だが、これは新型コロナウイルス感染拡大が陰に陽に中国輸出への需要を高めた結果であり、一言で言えば特需の結果であった。マスクや防護服など感染拡大と直接的な因果のある財はもちろん、ノートパソコンなど在宅勤務関連の電子端末も多くは中国発であり、こうした特需の存在がトランプ前政権に課された制裁関税を相殺したとされる(そもそも医療品は制裁関税の適用外だ)。
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