暴発した国軍とスーチー氏の「対話不足」の深刻 民主勢力の再起が厳しい中、日本にできること

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すなわち「2008年憲法」下で国軍の特権は守られており、総選挙で負けたからといってすぐに国軍の国政関与が脅かされたり、国軍の自律性が失われたりするわけではない。にもかかわらず、ミャンマー経済にとっても国軍にとってもコストの高いクーデターを実施したのには、国軍の意思決定メカニズムが関わっているとみる。

ミンアウンフライン最高司令官はじめ主流派を占める多くの国軍幹部は保守的だ。23年間におよぶ軍政時代、かつてのタンシュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長をはじめとする国軍主流派は、スーチー氏とNLDを徹底的に弾圧してきた。こうした主流派をおさえて、2011年に改革を進めたのはテインセイン元大統領だった。当時、軍政序列3位だったシュエマン元連邦議会議長も、自身が次期大統領を目指すという野心もあってスーチー氏に協力した。しかし、彼らは2016年のスーチー政権の発足とともに、表舞台から去ってしまった。

工藤年博(くどう・としひろ)/1963年生まれ。英ケンブリッジ大学で修士。アジア経済研究所を経て2015年から現職。編著に『ポスト軍政のミャンマー 改革の実像』『ミャンマー政治の実像 軍政23年の功罪と新政権のゆくえ』『ミャンマー経済の実像 なぜ軍政は生き残れたのか』など。(撮影・今井康一)

――とはいえ、国民はアウンサンスーチー氏を高く支持し、人気は衰えていないようです。

確かにそうだ。国民の人気はとても高いが、同時に国軍の影響力はあなどれない。ミャンマーの人たちはそういう現実を十分に理解している。そのため、国民はアウンサンスーチー氏やNLDと国軍は決定的な対立を避けて、双方が協力する方策を模索しつつ、国民生活の向上へつながる改革を続けてほしいと願ってきた。これが国民の現実的な本音だ。

――その協力関係がうまくいっておらず、クーデターにつながったということでしょうか。

お世辞にもうまくいっていなかった。スーチー氏とミンアウンフライン最高司令官を仲介する人がいなくなるなかで、2人の関係は冷え切ってしまった。2人の間で対話も交渉もないことが、今回のクーデターにつながった。

国軍は用意周到にクーデターを用意していたのだろう。すぐさまNLD系の議員や閣僚を一網打尽にし、無血でクーデターを成功させたことをみてもそれがわかる。スーチー氏やNLDはもう少し警戒すべきであった。

高齢のスーチー氏、NLDの人材不足

――国家非常事態宣言は1年を期限とし、その後総選挙を実施すると発表しています。アウンサンスーチー氏やNLDは再起できるでしょうか。

アウンサンスーチー氏はすでに75歳と高齢だ。NLDの組織力にも問題があり、国軍とやり合える人材がどこまでいるか。国軍はその間にスーチー氏の議員資格のはく奪や、NLDの切り崩しを行う可能性が高い。このような国軍の動きに国民がどれだけ反発を示すかが、アウンサンスーチー氏やNLDが国軍に対抗できるかのカギとなる。

――国軍は当面、どのような動きに出るでしょうか。

国民に対してできるだけ早く、日常生活に戻せるように動くだろう。1988年や2007年のような、軍部と国民が衝突し流血の事態にまでは発展しないとみている。それは、国が当時より豊かになり、混乱よりも安定した経済活動や生活を国民が望んでいるためだ。コメなどの物価上昇や為替の大きな変動も生じていない。

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