暴発した国軍とスーチー氏の「対話不足」の深刻 民主勢力の再起が厳しい中、日本にできること
日系企業をはじめ外国企業にも早期の活動・操業再開ができるようにすると思う。すでにタイとの国境も開放した。今後、国際社会からの制裁が科されたとしても、その影響を最小限に抑えるように国軍は努力するはずだ。国軍自身も今回のクーデターが国民から理解を得られるとは思っていないが、不満は抑えられるという自信も垣間見える。
――軍政への逆戻りで、国際社会の反応はどうでしょうか。アウンサンスーチー氏はかつてのように国際社会へ制裁を求めるような行動に訴えることができるでしょうか。
彼女は2017年以降注目されている少数民族ロヒンギャ難民の問題に人道的な対応ができず、国際社会からの信頼を落としている。また、世界の番人としてのアメリカの威信の低下と中国の勃興という政治バランスの変化もある。かつてのような民主活動家としての名声が、現在の国際社会でどこまで通用するかは疑問だ。
日本が「よき仲介者」となるべき
――ミャンマーに影響力のあるアメリカはクーデターと認定し、制裁を科すような動きを見せています。一方の中国はまだ静観している状況です。
2010年代から始まる民政移行期間中、簡単に言えば中国はミャンマーに関して負け組だった。経済制裁をアメリカが緩め、欧米企業がミャンマーに相次いで進出する中で中国はその攻勢に押されていた。一方で、エネルギーや資源獲得や物流網などインフラの構築でミャンマーに一定の影響を与えてきた。
アウンサンスーチー氏のスタンスは必ずしも中国寄りであったとはいえない。ただ、中国とは国境を接しており、国内の少数民族問題の解決には中国側の協力や理解を彼女は必要としていた。一方で、国軍はアメリカの世界での指導力の低下を認識し、かつてのような厳しい制裁は難しいと考えているだろう。仮に制裁が厳しいものになったとしても、国軍からすれば中国という大国の存在が緩衝材になり、かつ中国に頼ることができるとも考えているだろう。
――日本はアウンサンスーチー氏とも国軍ともうまくバランスをとって付き合っている国の一つです。日本への影響はどういったものが考えられますか。
2月1日に国軍が発表した新閣僚の顔ぶれを見ると、2011年から16年までのテインセイン前政権時代の閣僚や高官など、実績を残した人物が就任している。中でも日本に好意的だった人物も多く、日本に不利な判断を下すことは少ないのではないか。また日本を、中国を牽制するための重要な存在として考えると思う。
ミャンマーとの外交関係で、これまで日本はNLD側と国軍双方とよいスタンスを保ち経済協力なども順調に進めてきた。それゆえにミャンマーの政治的安定と経済発展のために、双方にとってよい仲介者となる資格が十分にあったと思う。国民の大多数が生活水準の向上を望んでいるなかで、日本が一肌脱ぐチャンスはたくさんあった。それだけにクーデターが発生したのはとても残念だ。ただ、日本の影響力が減っているわけではないので、軍政が続いても国民の生活向上という視点から、よき仲介者としての役割を果たせるはずだ。
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