「日本初の女性首相」の物語がいま支持される訳 『総理の夫』筆者の原田マハ氏に聞く

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現実の政治を、歯がゆく思っている人も多いだろう。東日本大震災や原発事故への政府の対応。去年コロナ禍に巻き込まれた際は、コロナ後のオリンピックや経済のV字回復が真っ先に語られた。その歯がゆさは、もしかすると政治に携わっている人が男性に偏っている期間が長過ぎ、政治が硬直化していることが原因かもしれない。

その責任の一端は有権者である私たちにもあるが、変化の兆しがないわけではない。実際、近年声を上げる人が増えている。東日本大震災後、デモやSNSを通じて、社会変革を訴える人たちは増加した。

昨年5月には、ツイッターで「#検察庁法改正案に抗議します」の投稿が延べ480万件を超え、政府が法案成立を断念した。フラワーデモやSNSで始まった#KuToo運動、男女共同参画について声を上げる若者、裁判などを通じて選択制夫婦別姓を求める「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」など、社会や人々に影響を与える活動が増えている。

「女性の総理大臣」という概念がなかった

人々が声を上げ、行動を始めた今だからこそ、女性の総理大臣を描いた物語を「ありえる未来」として読む人がいるのではないだろうか。しかし、原田氏が『総理の夫』の構想を得た2010年代初めごろは、女性総理という存在が現実感を持たれていなかったという。

「日本の政治については、ジェンダーの問題が根深い。例えば女性が総理大臣になったら、どういう風に世の中を変えられるだろう。そう考えて、『総理の夫』というタイトルを思いつきました。編集者を含め周囲にそのタイトルを告げたところ、皆さん10秒ぐらい考えこむんですよね。『女性総理大臣』という概念が頭にないから、何の話か分からない。中には、ゲイのカップルの物語と思った人もいました。

『総理の夫』に原田氏が込めた思いとは(写真:藤井保)

女性の総理大臣、という設定だけで、非常にフィクション性が強い、読んでみたい物語になる。そこで主役の日和をマンガみたいなキャラクターに設定するなど、エンターテインメント性が強い物語にしよう。政治に関して素人の私が学んだことを、読者の皆さんも一緒に学んでいただければ、と願いながら書きました」

エンターテインメント性を強くした個性的なキャラクターたちには、原田氏の願いも込められている。例えば主役夫婦は、妻が総理大臣になったため、従来の夫唱婦随の逆を行く。

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