「日本初の女性首相」の物語がいま支持される訳 『総理の夫』筆者の原田マハ氏に聞く

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女性総理の登場が現実味を持てずに来たのは、女性の政治家が少な過ぎるからである。自民党の女性衆議院議員はわずか7%、政権を支える役員会では0。公明党は常任役員会に7%、衆議院議員が14%、立憲民主党は執行役員会で18%、衆議院議員が14%。最も多い共産党が、党三役と衆議院議員がそれぞれ25%いるものの、全体としては女性の割合が非常に少ない。

世界経済フォーラムが2019年に発表したジェンダーギャップ指数で日本は121位だったが、政治分野に限ると153カ国中144位と下から10番目だ。

出来上がった概念超える時代がやってくる

そうした遅れについて、原田氏は「まだ時間はかかるかもしれないけれど、世界で現実的に起こっていることだから、女性総理が誕生する可能性がゼロとは思っていません。現実に起こりえないなんてことは、世の中に一つもない。出来上がった概念を超えていく時代が、やってくると思います」と力強く言う。

そのためには、政治に限らず社会のいろいろな場面で、女性のリーダーが選ばれることを当たり前にしていかなければならないのではないだろうか。

原田氏も「女性だからと気にせず、やる気がある人、クリアな思想を持ち、人の前に立てる人はいるはずだし、実際にやっている人もたくさんいるはず。そういう人が恐れずにもっと出てくる。そして、それを歓迎する世の中になって欲しい。初の、初のと繰り返すのはうるさくもありますが、その表現に期待を込める人たちがいる。私も含めて。その表現が必要なくなる時代を望みたいですね」と語る。

リーダーを選ぶ場面は、たくさんある。PTAや自治会の会長、会社の役職、社長。男性ばかりになっていないだろうか。女性が人を束ね男性を引っ張ることも、男性と同じように認められること、上に立つことから逃げないこと。そうできる環境を整えることが、まず必要なのではないか。

もしかすると、政治が動くのは遠い先ではないかもしれない。110年前に与謝野晶子が『青鞜』に書いた詩をもとに、土井たか子が「山が動いた」と言ってから32年。あの頃のフェミニズム・ムーブメントは、バックラッシュの憂き目にあったが、その後世代交代は進んでいる。今年は衆議院議員選挙がある。地方選挙もたくさんある。意志を示すチャンスを、逃す手はない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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