「より気を遣うようになったのは、午後8時以降やっている店の看板とか、店で飲んでいる人の顔をわからないようにするとかではないでしょうか」と語るのは前出のディレクターだ。「自粛警察」的な人から取材先である飲食店やそのお客さんを守るため、撮影時点でできるだけ店や顔が特定されないように気を遣い、画像処理も慎重に行う。
それだけではなく、深夜の街を撮影する場合などには「映り込み」にも注意するのだという。何気ない街角のシーンでも、そこに煌々と明かりの灯った店や、酔っ払い千鳥足の人物などが不用意に映り込んでしまえば、どんな迷惑をかけてしまうかわからないからだ。
どうして報道番組の制作現場はあまり緊急事態宣言の影響なく仕事を続けられるかというと、かつて一部の番組でキャスターやスタッフなどにクラスター(感染者集団)を出してしまった苦い経験から、かなり先端的な仕事のやり方をすでに導入し始めていた、という事情がある。
VTRは「社内リモート編集」を活用
例えばVTRの編集では、「社内リモート編集」とでもいうべきスタイルがコロナ禍を機に新たに編み出されている。
これまで報道・情報番組のVTRを編集する際には、「編集ブース」と呼ばれるトイレの個室を少し広くしたくらいの狭いスペースで、編集機を前に編集マンと担当記者や担当ディレクターが、一緒に編集をするのが一般的だった。その編集ブースが何十と並ぶのが「報道編集室」で、ここはどうしても密にならざるをえず、クラスターがいつ発生してもおかしくない。
そこで、現在は編集ブースには編集マンのみがいて、その編集画面を局内にある別の部屋から担当記者や担当ディレクターがパソコンで見ながらリモートで指示を出し、編集をするという方法をとっている。これによって、接触を極力避けているのだ。
社内リモート編集は当初、「ストレートニュース」といわれる短くて比較的編集が容易なVTRを中心に行われていた。だが、今回の緊急事態宣言を契機に、ワイドショーや帯のニュース番組など「比較的長い尺」のVTRにも拡大されているという。「なかなかやりにくい面が大きいですが、慣れないといけないんでしょうね」と前出のディレクターは苦笑する。
さらに、ストレートニュースの編集では、去年の夏ごろからマイクロソフトのTeams(チームズ)などのソフトを活用しながら、在宅でリモート編集を行うようになっており、ナレーションを撮るなど必要最小限の人間以外は出社の必要がない。取材もすでにかなりの部分を在宅で行っているため、無症状の感染者や濃厚接触者もニュース制作の「戦力」として活用できる。このようにテレビニュースの世界は、すでにある程度「コロナとの共生」に成功している面もあるのだ。
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