「救いの神」の廃止が象徴する夜行列車の衰退 高速バスに押されて消えゆく優等列車の灯火

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「ムーンライトながら」の廃止に限らず、そもそも現在、JRで定期的に運行されている夜行列車は、現在、東京駅を夜10時に出発し、高松と出雲市に向かう特急「サンライズ瀬戸・出雲」(岡山駅で2方向に分割)のみという衰退ぶりである。

しかも、優等列車ゆえ、10時ちょうどという覚えやすい時間に出発しているこの列車は、きたる3月の改正で、東京駅発が10分繰り上がり、9時50分発になる。長距離列車のステータスともいえるキリのよい「10時ちょうど発」を、新設される通勤者向けの短距離特急に譲るのである。

そういう意図ではないだろうが、夜行列車の地位の凋落ぶりを象徴するような時刻改正だ。

夜間の移動は「ほぼバスだけ」に

世界的に見ても、夜行列車は高速鉄道網の伸長や航空路線の発達で後退傾向にあるが、それでもアジアにせよヨーロッパにせよ、一定の存在感はある。

ヴェネツィア サンタ・ルチア駅の夜行寝台列車「セロ」(筆者撮影)

この写真は、3年ほど前にヴェネツィアの陸の玄関であるサンタ・ルチア駅で撮影した、ミラノ・パリへ向かう夜行列車であるが、ヨーロッパの国際長距離列車には、まだまだ夜行列車は珍しくない。

もちろん、夜行の高速バスも安く移動できる手段として欧米でも多数の路線が運行されている。例えば、パリからは老舗のユーロラインや近年路線網を伸ばしているフリックスなどがあり、ロンドン、マドリード、ベルリンなど欧州の主要都市には、たいてい夜行バスで行ける。

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こうしてみると、夜行便に関して鉄道とバスが役割分担により並立している各国の状況と、今春のダイヤ改正に象徴される夜行列車の一方的な退潮が顕著な日本の状況は、かなり異なっていると考えられる。

夜行列車に限らず、高速道路の伸長が昼間の都市間移動についても各地でJRの客を奪っている状況がみられるが、日本列島を夜移動して朝、遠く離れた都市で1日の活動を始めるという生活や旅のパターンを支える公共交通機関は、ほぼ夜行高速バスだけであることが、あらためて鮮明になった今春のダイヤ改正であった。

佐滝 剛弘 城西国際大学教授

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さたき よしひろ / Yoshihiro Sataki

1960年愛知県生まれ。東京大学教養学部教養学科(人文地理)卒業。NHK勤務を経て、高崎経済大学特任教授、京都光華女子大学教授を歴任し、現職。『旅する前の「世界遺産」』(文春新書)、『郵便局を訪ねて1万局』(光文社新書)、『日本のシルクロード――富岡製糸場と絹産業遺産群』(中公新書ラクレ)など。2019年7月に『観光公害』(祥伝社新書)を上梓。

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