ビートルズとアップルの知られざる意外な関係 かつては社名をめぐって法廷闘争も行われた

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いずれにしても長い間、“アップル”はビートルズを象徴するアイコンだった。しかし近年では、ビートルズのアップル・コアではなく、マッキントッシュで有名なアップル・コンピューター(正式名称はApple Inc.)を思い浮かべる人のほうが圧倒的に多いのではないだろうか。

Apple Inc.という社名は、同社の設立者であるスティーブ・ジョブズが考案したものだと言われている。フルータリアン(果実食主義者)だったジョブズが、リンゴ農園に行った際に直感的に思いついたという説。「楽しげで元気がよく、威圧的でないから」Appleにしたという逸話が残っているのだそうだ。

だが、この“リンゴ農園に……”という経緯は、定かではないらしい。ジョブズとともに共同でこのアップルを立ち上げたスティーヴ・ウォズニアックは、「ジョブズは音楽が好きだったから、ビートルズのアップル・コアから思いついたのかもしれない」と述べているのだ。(43ページより)

ジョブズはボブ・ディランとジョン・レノンのファンで、自社のプレゼンテーションの際にはディランの詩を朗読したり、ビートルズのレコード・ジャケットを使ったりしたことがあるという。そんなことを踏まえると、敬愛するビートルズがかつて同じ名の企業を立ち上げていたという歴史の影響も、たしかに否定することはできないかもしれない。

アップルvs.アップル

しかし1970年代後半から今世紀初頭にかけて、ロゴマークとアップルという社名をめぐっては、コンピューターのアップルと、ビートルズのアップル・コアとの間で、使用をめぐって裁判で争われたことがあるのだという。

両社は一度、1980年代初頭に和解している。和解案はコンピューターのアップルが音楽事業を行わないことと、アップル・コアがコンピューター事業を行わないことだった。だが、今世紀に入ってコンピューターのアップルがiPodやiTunesを開発。これが音楽事業参入にあたるとして、再度起訴問題に発展したのだ。

この再訴訟も2007年には和解している。この時の和解案は、コンピューターのアップルがアップル・コアに5億ドルを支払って関連する商標権を保有、アップル・コアはライセンスを得てその商標を使用することを約束するというものだった。(44ページより)

アップル・コアはビートルズのメンバーの理想からスタートしたわけだが、波紋は近年までに及んでいるということだ。それは、時代を超越した存在であったビートルズが、ITビジネスにまで影響を及ぼしたとも解釈できるのかもしれない。

印南 敦史 作家、書評家

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いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「WEBRONZA」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)など著作多数。

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