往年のベストセラー『7つの習慣』で価値観を統一
レアジョブ英会話の講師たちは、皆、自宅から日本の顧客とSkypeをつないで英会話を教えている。その講師たちを採用しマネジメントするのは、現地で採用されたフィリピン人従業員たちだが、実務においてはほぼすべての権限を彼らに委譲しているという。加藤氏ら経営幹部の日本人が、出張などでひとりもフィリピンのオフィスにいないということも珍しくないそうだ。
「アジアに進出した企業ならば当然そうあるべき」と言うのは易く、行うは難し。取材でお話しするアジアに進出した日系企業の経営者たちが口をそろえて話すのが、現地人材の採用と彼らのマネジメントで、言語や文化の違いをお互い理解しその困難を乗り越えようと、いくつかの日系企業は、今、変わろうと試行錯誤している段階だ。レアジョブ英会話はその好例といえるだろう。
たとえばレアジョブ英会話では、「レッスンに対する顧客の不満足度を何%に下げなくてはいけない」など指針までは経営幹部が提示するが、それを実現する具体的な施策はフィリピン人従業員たちが自ら考え、実行するという。ポイントは、「人間の可能性を信頼すること。現地採用の従業員は駐在員に対等に見られることが少ないので、任せることでやる気を引き出す」(加藤氏)ことだと話す。
彼らのやる気を出すために加藤氏が多用しているのが、スティーブン・R・コヴィーによる名著『7つの習慣』。同氏いわく、フィリピン人にはあまり読書習慣はないそうだが、レアジョブ英会話では現地採用の従業員に読ませ、その内容を仕事に臨むときに持つべき価値観として共有しているという。社内の会話で頻出するのが、第1の習慣「Be Proactive(主体性を発揮する)」だという。
たとえば、日本でも考えられるケースだが、会議で合意のうえで決定したはずの新しい施策に対して、実は納得していない従業員がいるということがある。その場の空気を読んで上司に迎合することが、フィリピンでもあるのだそうだ。上司からすれば「その場で自分の意見を言えよ」と済ませたくなるかもしれないが、きちんとすり合わせを行い、そのうえで「主体的に動くように」と本質的な価値観を繰り返し伝えるそうだ。
この上司は第5の習慣である「Seek First to Understand, Then to Be Understood(理解してから理解される)」ことを理解しているから、部下とこうした意思疎通が行えているのだろう。
現地採用の従業員たちも、そんな職場にやりがいを感じているようだ。「社内ではプロアクティブな人が評価される雰囲気があり、どんな相手に対しても会話したり提案しやすい」(サービス品質管理を担当するキアラさん)。「個人の成長を感じられ、また会社の成功に貢献しているという実感もある。以前よりも自分の将来のためにもっとコンペティティブになった」(採用を担当するヘレンさん)。「日本人の上司は厳しいと思うが、それは会社にとっていいことだと思う」(講師のクリスさん)。
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