これらの企画は映画や漫画から着想を得ることもあれば、自信の実体験をもとに考えられている。
その象徴が「2014年度グッドデザイン賞&グッドデザイン・ベスト100」など、国内外の多くの広告賞を受賞した「タートルタクシー」といえるだろう。タートルタクシーとは、後部座席に設置されたゆっくりボタンを押すことで、乗務社員にスピードを落とすことを促すというものだ。
「映画の『TAXi』の中で、ボタンを押すとすごいスピードが出るシーンがあるんですね。それで、逆にボタンを押したら遅くなる、という発想は面白いんじゃないか、と。乗務社員さんはどうしても『お客様は急いでいる』と思い込みがち。お客様も『急いでくれ』とは言えても、『ゆっくり走ってほしい』とは心理的に言いにくい。
そこでアンケートをとったら、実はもっとゆっくり走ってほしい、という声が9割にも及んだんです。それなら遅く走るタクシーを始めてみよう、と考えたのがスタートでした。
心霊スポットツアーも、ロンドンでオカルトバスツアーに参加したときに楽しくて、これを日本でやったら面白いと思いました。企画段階では、いろんな方から『事故が起きたらどうする』『クレームが入ったら』と大反対を受けました。でも、強引に進めなくては組織や風習も変わらない局面もあり、僕の独断で進めました。今でも、そういったつねに新しい変化を求める姿勢は大切にしています」
社員から自主的に発信されるものも増加
もともとは社長発信のものが大半だった三和交通の企画だが、現在では社員から自主的に発信されるものも増えてきているという。
村松康史さん(48)は大阪芸術大学を卒業後、カメラマン・交通業界の専門誌記者を経て4年前に三和交通に乗務社員として転職している。13年にわたりタクシー会社を取材し、業界の内情をよく知る村松氏は三和交通を選んだ理由をこう話す。
「全国で何百社とタクシー会社を見てきましたが、業界全体で閉鎖的な色が強いのは見てきて感じました。ホスピタリティをうたっても、内容が伴わない会社も少なくないです。そんな中でも三和交通は、過去の風習に捉われずに新しいことをやっていこう、というのが本気で伝わってきました。そして、本当に面白い企画を考える工夫をしていた。
タクシーでこれをやるのは、ほかの業界よりも難しいと思うんです。『なんとなく面白そうだな』というところからはじまり、ここで働いたら面白そうだな、という自分の感覚を信じて転職したんです」
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