優秀な部下でも「適応障害」になりうる背景事情 ストレスに対処できる能力に生物学的な限界
よくある例として、実態は適応障害なのに「うつ病」と診断書に書かれて休職したとします。すると、会社側または産業医は、「うつ病は、患者さんの性格や脳内の問題ですから、治してから復職してください」とするかもしれません。つまり、職場環境の問題を考慮しないということです。
これは、病気に至った原因をすべて患者さんの脳内に帰着させ、問題の本質をすり替えることになってしまいます。これでは治療が進みません。意図的な場合もあるし、そうでない場合もあります。なお「ブラック企業」では、往々にして前者です。
一方、診断書に「適応障害」と書かれていれば、それは職場を含めた外部環境に問題があるということを含意しているので、会社は環境調整を進めざるをえません。このように、適応障害とうつ病では、職場側に与える影響がまったく異なるので注意が必要です。
「燃え尽き」の生物学的メカニズム
優秀な部下は頼もしいものです。どんな指示も素早く理解し、タスクにも全力を尽くし、確実にアウトプットを出してくれます。会社の将来を担う希望の星です。昇進のチャンスがあれば積極的に推薦したいと、あなたは考えることでしょう。
しかし、そんな部下がつねによいパフォーマンスを出し続け、期待通りに昇進してくれるかというと、必ずしもそうではありません。長時間労働やタスクの困難さにやがて耐え切れなくなり、心と身体を病み、出社することができなくなることがあります。
なぜ、そういうことが起こるのでしょうか。それは、ストレスに対処できる人間の能力に、生物学的な限界があるからです。ストレスに対処する能力は、抗ストレスホルモンと呼ばれる一連のホルモンの働きとして、とらえることができます。
あなたの部下が、あなたから課されたタスクに直面したとき、部下の脳内では次のような反応が起こっています。
まず、脳の視床下部がストレスを認識し、その信号が脳下垂体や副腎を刺激し、ベータエンドルフィンやノルアドレナリン、アドレナリン、コルチゾールなどの抗ストレスホルモンが分泌されます。それによって全身の代謝が高まり、免疫力が強化され、交感神経が刺激されるのです。
結果として、血圧上昇、脈拍増加、瞳孔散大といった身体の変化が起こります。これは、ストレスに立ち向かう態勢を整えているのであり、あたかもゴングが鳴る直前のボクサーのような戦闘モードを作っていることになります。
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