「発達障害の従業員」について会社が負う"義務" 裁判例から読み解く「合理的配慮義務」の内容

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「合理的配慮義務」としては施設の整備などいろいろな対応が考えられるが、周囲の人たちにとって身近な対応は、「指導・指摘」だろう。

上記の判決ポイントを「指導・指摘の仕方」にフォーカスすると、一般的な指導・指摘の仕方では、発達障害の人には「自分の行動が問題である」とは理解できない可能性が高く、これは合理的配慮とはいえない、合理的配慮としては、発達障害の人の特性に応じた「発達障害の人に伝わる形」での指導・指摘が必要である、ということになるだろう。

ちょっと視点を変えてみてはどうだろう

「発達障害の人に伝わる形での指導……なんか難しそう」と思われるかもしれない。でも、ちょっと視点を変えてみてはどうだろう。

私は発達障害の専門家ではなく、業務上の経験からの感覚となってしまうのだが、「発達障害の人は、インプット(理解)とアウトプット(表現)の仕方が、大多数の人と違うことがある」と考えてみるとうまくいくことが多いように思う。

インプットについては、「大多数が当たり前のこととして理解し言葉にしないこと」をあえてきちんと言葉にして説明したほうがよく理解してくれることが多いという印象であり、また、アウトプットについては、発達障害の人がしている(大多数が問題と思う)行動には、その人なりの理由がちゃんとあることが多いという印象だ。

例えば、「上司へのホウレンソウ(報告、連絡、相談)が必要な理由」を、そうしないと誰がどういう理由で困って結果どうなるのか、というように順序立てて説明すると理解してくれて以前よりホウレンソウができるようになったり、上司の指導を受けるときにそっぽを向く従業員にその理由を聞いてみると、「目を合わせるのが怖く感じる、顔を見ないほうが集中して話を聞ける」からだったり(実は、そっぽを向くのは、本人からすると、話を真剣に聞くための対応だった)、といった感じだ。

もちろんこれらがすべての発達障害の人にあてはまるわけではないが、世の中の「当たり前」「普通」から少し距離を置いて、「目の前の人にどうしたらきちんと伝わるか」と考えてみることが、発達障害の人もそうでない人も気持ちよく働ける環境への第一歩につながるように思う。

宮川 舞 銀座数寄屋通り法律事務所 弁護士

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みやがわ まい / Mai Miyagawa

東京弁護士会所属。会社間の紛争を中心に、訴訟を多く手掛ける。また、『名誉毀損の慰謝料算定』(学陽書房)の執筆陣に名を連ねるなど、名誉・信用・プライバシー・肖像・パブリシティの侵害に関わる研究や事案に造詣が深い。弁護士による誹謗中傷対策 弁護士宮川舞公式サイト

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