感染力高い変異種の病原性「弱いはずがない訳」 インフル研究の第一人者が見るコロナの先行き

✎ 1〜 ✎ 21 ✎ 22 ✎ 23 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
喜田宏(きだ・ひろし)/1943年生まれ。北海道大学獣医学部卒業、同修士課程修了。69~76年武田薬品工業に勤務、 76年から北大。教授、獣医学部長などを歴任。現在は、北大人獣共通感染症リサーチセンター特別招聘教授、長崎大学感染症共同研究拠点点長。日本学士院会員(筆者撮影)

例えば、2009年の新型インフルエンザウイルス(H1N1)のパンデミックのとき、そのシーズンでの死者は国内で約200人でしたね。世界的にも15カ月で2万人足らずしか亡くなっていない。でも、その子孫ウイルスが起こす季節性インフルエンザでは、死者は何十倍にも膨れ上がっている。ウイルスが人に適合して、増殖する変異ウイルスが優勢になったから。

1918年にパンデミックを起こしたスペインかぜでも、第1波より、その子孫ウイルスが起こした第2波、第3波、すなわち季節性インフルエンザのほうが重症者も死者も多かった。感染性と病原性はリンクしていることを知っておいたほうがいい。

ウイルスを擬人化して議論するのは間違いのもと

――宿主を殺してしまうとウイルスが生存できないから、弱毒化すると話す専門家もいますが。

ウイルスを擬人化して進化論や適者生存、選択淘汰の議論をするのは、間違いのもと。ウイルスは賢いとか、ウイルスの戦略など「たとえ話」の範疇からはみ出している言葉が使われるのは嘆かわしい。何万年もかけて自然宿主との共生関係ができるのは、選択圧力(変異を促す要素)がなくなってから、の話です。いまの新型コロナウイルスには、当てはまらない。

第1に、毒性とか強毒化とか弱毒化とか言っている時点でおかしい。ウイルスは毒素ではないから正しくは「病原性」です。ウイルスの体内増殖に対する人の免疫応答が病気なのですから。

――先生は専門のインフルエンザウイルスの観点から、コロナウイルスを見ています。

新型コロナウイルスの正体を探るためには、インフルエンザウイルスを参考にするとわかりやすいかもしれません。インフルエンザウイルスの自然宿主はカモで、大腸で増殖して糞とともに排出されます。夏場はシベリアの営巣湖沼にいるが、秋になると南方へカモと一緒に飛来する。でも、病原性がないのでカモも死なないし、人に感染することもない。

でも、ウイルスが渡った先で他の鳥や動物に感染すると、新しい宿主で感染を繰り返すうちに、増殖する変異ウイルスが選ばれて感染が拡大する。それが鶏の間で受け継がれているうちに、養鶏場の鶏の全身で増殖する高病原性鳥インフルエンザウイルスが生まれるわけです。100%の致死率です。これは鶏の間で何百、何千代もの継代を経てやっと生まれる。新型コロナウイルスが人の間でどんどん感染を繰り返すうちに、増殖しやすいウイルスが優勢になるのと同じこと。

加えて、人の新型インフルエンザウイルスは、鳥のウイルスから直接、人に感染したものではない。

次ページカギを握るのはブタ
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事