木村拓哉の「教場」に原作ファンが違和感抱く訳 主人公「風間公親」はハマり役だったのか?

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とはいえ、原作のファンが「キムタクじゃない」と主張するのだから、原作には確固たる風間公親像があって、さぞやそこから乖離しているのだろうと。

ところが、である。実は、原作4冊を読んでも、風間公親の外見を想像できなかった。「白髪頭」と「どこに焦点が合っているのかわからない義眼」以外に、容姿を表現する文言が極端に少ない。長身とも小柄とも書いていない。顔の造作も濃いのか薄いのかも一切書いていない。風間公親の刑事指導官時代を描いた『教場0』に、登場人物が風間の風貌を表現する文言があったので、あげてみる。

「中年」「頭髪の色に惑わされてしまうが、実のところはそれほど年配でもなさそうだ。もしかしたらまだ四十代かもしれない」「年齢の割に贅肉が少しもついていない」「不気味な雰囲気の男」「古武士といった風貌」

それこそ、人それぞれの印象でまちまちだ。教場の学生たちもしかり。宮坂定が「きみちか=気短か」と連想するくらい無愛想と表現するも、外見の話ではない。風間の声を「よく通るが、ざらついた声」と表現したが、実に曖昧。楠本しのぶは「ただ隙のない男」と評するにとどめている。

花を愛し、こまめに手入れをする姿から連想させるのは「内面の穏やかさ」。警察官として暗唱必須の法律だけでなく、文学や芸術、心理学にも精通した「知性と教養」。酒はあまり飲まず、私生活はまったくの「謎」。唯一の弱みは「注射が苦手」くらい。無口で物静か、何を考えているのかわからないが、感情的な物言いはしない。

風間公親像を固定しないよう、余計な描写がないのだ。それがこの小説の魅力でもあり、無色透明な風間公親を想像力で楽しむ読者を虜にしたのだろう。

異なる「風間公親」も観てみたい

そう考えると、フジテレビとキムタクが作り上げた風間公親は盛りすぎた感が。最恐、冷酷無比、身の毛もよだつ……まるでモンスターのような描写で煽りに煽って完成したのは「不機嫌で理不尽な風間公親」。それが違和感の根源なのかも。

初代・風間公親はキムタクが固めた。フジテレビは原作を超えてシリーズを作っていくだろう。ジャニーズ事務所の若手をこぞって投入して。ジャニーズ事務所は警察学校モノがお好きなようだし、顧客をつかんでいるからそれはそれでいい。

でも、異なる風間公親、異なる教場も観てみたい。それこそ金田一耕助や十津川省三、浅見光彦のように、各局さまざまな俳優で個性を競わせるのもありだ。WOWOWならより知的に、BSテレ東ならミニマムにまとめてくれるかな。学生を主軸に深く描くなら、30分枠の連ドラのほうが面白くなるかもしれない。

原作『風間教場』のエピローグは意味深だ。風間教場の終焉を匂わせる文言で終わっている。「教場はこれで了」という意味にもとれるし、描いていない過去に戻る可能性もある。風間公親そして教場に対する思いは広がるばかりだ。

吉田 潮 コラムニスト・イラストレーター

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よしだ うしお / Ushio Yoshida

1972年生まれ。おひつじ座のB型。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News it!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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