木村拓哉の「教場」に原作ファンが違和感抱く訳 主人公「風間公親」はハマり役だったのか?

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もちろん、このふたりの狂気を支えたのは脅されっぱなしの工藤でもある。優等生で教官のスパイまでやらされる気の弱さとまじめさ。2020年版の主役はある意味、工藤でもあった。

が、卒業シーンで続編の布石も打たれていた。風間教官から「死ぬなよ」と声を掛けられていたのだ。2021年版では案の定、工藤は暴走車に跳ね飛ばされて死亡。衝撃だった。原作では他の警察官が亡くなる。宮坂定は、警察学校で講師を頼まれるほど立派な警察官に成長しているのに。

その他のエピソードも、2020年版の『教場』は原作にわりと忠実だった。勘違いで同期に脅迫状を送り付けるも逆に酷い仕返しをされる楠本しのぶ(大島優子)、容姿に自信があるものの実力は伴わない菱沼羽津希(川口春奈)、最も警察官向きなのに旅館の女将になった枝元佑奈(富田望生)、先輩警察官の悪事に加担する調達屋の樫村卓実(西畑大吾)、妻子持ちの元ボクサーと異色の経歴をもつ日下部准(三浦翔平)。

唯一、斜に構えた優等生・都築耀太を演じた味方良介だけはハイブリッドで、原作に登場する都築耀太と美浦亮真を混合した役どころだったと知る。

それに比べて、2021年版の『教場Ⅱ』は原作と乖離し始めた印象がある。複数のエピソードを混合し、原作にない人物を配置し、ドラマとして独り歩きし始めたようだ。原作ファンが抱く違和感は、ここにあったのか。

意図的に女性を多く配置した『教場Ⅱ』

2021年版の特徴としては、女性キャストをかなり意図的に増やしたことだ。

福原遥(忍野)と高月彩良(堂本)の役どころは、原作では男性。「女性に片思いする男の歪んだ性癖」は「女性同士の思慕を超えた情」に挿げ替えられていた。恋心と善意の矢印の向きがわかりにくくなり、視聴者は困惑。

正直、私も「?」と思った。原作のエピソード(『教場2』第二話・心眼)を読んで理解した。性別を無理に変えて生じる「特性の違い」は、説得力を低下させてしまった気もする。

また、上白石萌歌演じる石上史穂は、「総代争いをする男子のいざこざ」でトラウマを抱えて休学した同期生という設定だが、原作にはない。ハチ嫌いの男子にまつわるエピソードはあるが、大幅に手を加えた運びに。罪の意識は異なる形で上白石に転嫁されたのだ。ま、ここのくだりは、伊藤健太郎の事件もあって撮り直しになったため、苦悩と配慮があったに違いない。

そして、松本まりか演じる副教官見習いの田澤愛子は、原作の『教場0』では刑事、「風間教場」では助教になっている平優羽子に、かなりの引き算と微妙なかけ算を施した問題のある人物と化していた。「悪女を演じて喝采を浴びてきた松本まりかならでは」というエンタメ要素を加えた形である。

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