それってどういうことか? あなたは、まだ20歳やそこらでしょ。ということは、上り坂はあと30年やそこらってことよ。ひるがえって、人生のピークが過ぎたあとも、下り坂がなかなか終わらないってことよ。
私なんて、とっくにピークなんて過ぎて下り坂よ。そのときに、自分のモチベーションって何か?ということががぜん大切な問題になってくるのよ。
「自分の能力を評価されたい」がモチベーションだったら、ポストやおカネでその評価が返ってくるのは、せいぜい賞味期限20年間ぐらいね。賞味期限過ぎてからが、長いよー。その後、どうやって生きようか?
私はね、モチベーションって、たったひとつだと思ってるの。幸せになりたい――。それでいいと思うの。
さっきあなたは、周りの人を幸せにしてあげたいっていうようなことを言ったよね。でもさ、そんな能力、自分にあると思ってる? あるとしたら、ずいぶん自信家だね(笑)。「誰かを幸せにしてあげる」前に、自分が幸せになりたいと思って、そうなったらいいじゃない。
幸せの条件に、仕事や家庭やいろんなものがあると思う。
仕事が自分の人生の中でどういう、比重を占めるものかって、考えてごらん。はたして、仕事で能力を評価してもらえることが最大のモチベーションかって。どんな仕事だって、必ず終わりがある。ここ(東京大学)の先生だって、必ず65歳で言われるのよ。定年です、辞めてくださいって。どんな好きな職場でも、退職しなくてはいけないの。
仕事は食うため、生きて行くためのもの。どんな仕事であれ、ストレスにならない程度の仕事は持っていたほうがいい。その仕事が、「たまたま」生きがいや、やりがいに、あるいは、自分の評価につながったらラッキー!と思えばいい。
でも、仕事と評価ややりがいが一致するかどうかは、わからない。
あなたが何歳まで生きるかわからないけど、おそらくあなたは今まで生きてきた4倍は生きなくてはならないわよね。歳をとって、自分が死ぬときに、「ああ、面白かった」と「私の人生悪くなかった」と思えたらいい。
それを前提にしたら、あなたの人生にとって、大事なことと大事じゃないことの優先順位がつかないかしら?
D:(うなずく)
上野:ちなみに、私はね、優等生だったの。デキがいい子だったの。あなたもそうだと思うけど、優等生ってね、とっても困った性格があってね。何をやっても、総じて、パフォーマンスレベルが高いんだよね。好きなことのパフォーマンスレベルも高いのだけど、好きじゃないことも、一定程度のレベルはクリアしちゃう。先生とか、親にやれと言われたらね。
すると、何が起こるか? 自分が好きなことと好きじゃないことの、見分けががつかなくなっちゃうのよね。困ったもんだよ。
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