では、これを補填できるでしょうか?
赤字を補填するには、零細企業だけで7~9月期で391億円、年間で1564億円の支援が必要です。宿泊業全体を考えると、7~9月期で2005億円、年間で8020億円必要です。
仮に、前年並みの営業利益までの補填を考えると、零細企業だけで、7~9月期で約603億円、年間で2415億円の支援が必要です。宿泊業全体では、7~9月期で2915億円、年間で1兆1661億円必要です。
一律10万円を支給した「特別定額給付金」の事業費は、事務費を合わせて12兆8803億円でした。
これと比較すれば、不可能なことではないでしょう。
しかし、利益が激減しているのは宿泊業だけではありません。同様の事態に陥っている業種として、先に述べた飲食サービス業等があります。それを考えると、決して容易なことではありません。
従業者に対する支援は?
以上では、営業利益の減少に対する支援を考えました。それでは、従業員(あるいは、元従業員)に対する支援は、どうでしょうか?
まず人員1人当たりの人件費(「給与」と呼ぶことにします)を見ると、2020年7~9月期では75.6万円(月あたり25.2万円)です。
これは、前年同期の79.3万円とあまり大きく変りません。
つまり、企業は、人件費を削減するために、給与を下げるのではなく、人員を整理したのです。
ですから、雇用され続けている従業員に特別の支援を行う必要はないでしょう。
具体的には、昨年行われた特別定額給付金のような一般的給付は必要ないでしょう。
では、削減された従業員については、どうでしょうか?
単純に考えると、人件費の削減額だけの支援が必要といえます。
その額は、宿泊業全体で、7~9月期で2183億円、年間で8000億円です。
ところが、実際にはもっと複雑です。原理的に考えると、削減された従業員は、失業者となったか、非労働力人口となったか、あるいは休業者となったはずです。そして、失業者には失業手当があり、休業者のうちかなりの部分は、雇用調整助成金で手当されています。
本来は、これらを考慮したうえでの支援策が必要です。ところが、上記の各々のカテゴリーがどの程度の人数かが、はっきりわからないのです。
それは、法人企業統計調査と労働力調査は、カバーしている範囲が違ううえ、休業者の扱いが違うためです(注1)。
(注1)労働力調査によれば、休業者の数は、8月において216万人。うち、自営業者が35万人で、雇用者が175万人でした。
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