「1泊8万円」の高級ホテルが強行出店する勝算 富裕層が年間に何度も訪れるサービスとは?

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加えて、遠藤社長は他社のリゾートホテルとターゲット、楽しみ方ともに大幅に異なる点を強調する。

遠藤社長は御代田について「これ以上の場所はない」と自信を見せる(記者撮影)

ひらまつ御代田は軽井沢の主要な観光エリアから多少離れて立地する。「縄文土器が発掘されるような土地で、自然に囲まれ、食でもこれ以上の場所はない」(遠藤社長)。

また、ひらまつ御代田は「オーベルジュ」(宿泊施設を備えたレストラン)であり、最大の強みは食だ。通常なら、レストランで出来たての料理をどう楽しむか、といった工夫を凝らすが、今回は高級フレンチを何とか屋外で楽しめないか画策しているのだ。ラウンジや客室、テラスでの食事はもちろん、敷地を飛び出して、御代田町の景勝地で楽しむプランも構想しているほどだ。

季節による集客のブレを抑制

そのほか、料理を詰めたバスケットを手にピクニックを楽しむオプション、さらには夜の食事を楽しむためにヨガなどのエクササイズを行ったり、昼食を抜く、もしくはシェフ特製のスムージーで済ませるといった試みも進めるという。

屋外で食事を楽しめる体験などを、ホテルの売りにしていく考えだ(写真:ひらまつ)

こうしたオプションは、コロナ禍で積み上げたアイデアだ。現在、主軸のレストラン部門は厳しい推移だが、コロナをきっかけに家庭で楽しめるテイクアウト用メニューの開発など、高級店ゆえに手薄だった施策を進めてきた。当初は「フレンチをテイクアウトにするなんて」と葛藤もあったというが、客の要望に合わせたサービスを重視してきた。ホテルでも新サービスの実践に乗り出そうというわけだ。

遠藤社長はこう語る。「シェフの高いスキルを持って良い食材を使い、かっこいいレストランでテーブルについて食べるフレンチがおいしいのは当然のこと。だが、それをやれるレストランはほかにもたくさんある。御代田では食の体験をもう一段引き上げたい。よりおいしく食べさせるための場所や空間、施設は何かと考えている」。

背景には継続的に客を呼び込む狙いがある。観光目的の宿泊の場合、軽井沢周辺は極寒の地ゆえに、オフシーズンの冬は厳しくならざるを得ない。だが、オーベルジュとして四季折々の食材を用い、料理と体験を楽しむ場として訴求すれば、年間を通じて訪れる理由を作り出せるからだ。

実際、ホテル事業は好調だ。2020年7月以降、既存店売上高は前期実績を大幅に超えて推移しており、Go Toトラベル事業が一斉停止となった12月も前年同月比49%増を記録している。御代田でも独自のアピールで富裕層の心をつかむことができるだろうか。その成否はアフターGoTo、さらにはコロナ収束後も見据えた、業界の重要事例になりそうだ。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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