分断・差別をあおるコロナ「罰則」規定の危うさ 「飲食店は急所」と名指しされた当事者の心中

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確かにPCR検査で陽性とわかった人が動き回れば2次感染を招きかねない。加えて入院調整や感染者の管理でパンク寸前の保健所にとっては、大きな負担になる。時短営業を拒否する飲食店が容認されれば、感染拡大を助長しかねないし、要請に応じた店は不公平感を抱くだろう。それを思うと、筆者自身、罰則についての判断は揺れる。

だが一方で、罰則という強制力は、1人ひとりの尊厳を傷つける危うい一刀ともなる。対象となった業種や個人が差別・分断されてしまいかねない。国民が一丸となってウイルスと対峙しなければならないときに、その力をそいでいく。それを見通したうえで、冷静な議論が必要なテーマのはずだ。

実は、世界中の知識人が、同様の懸念を表明している。4月11日にNHKのETV特集「緊急対談 パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望」のなかで、フランスの経済学者・思想家のジャック・アタリ氏は、こう述べている。

「人は必ず自由でなく安全を選ぶ」

「安全か自由かという選択肢があれば、人は必ず自由でなく安全を選ぶ」

国民がパンデミックという脅威から身を守るためには、どうしても安全を確保してくれる強い権限を持った政府を求める。しかし、その結果、分断や差別が促されて「連帯のルールがやぶられる危険性が極めて高い」とアタリ氏は警告している。非常時にこそ、政府の権限強化には慎重な議論が必要だと説いているわけだ。

日本でも確かにこの夏、危うい兆候が見られた。ホストクラブなど接待を伴う店への立ち入り調査の是非だった。本来は感染症を防ぐ目的ではない風俗営業法や食品衛生法などを使って営業停止や立ち入り調査ができないか、検討された。パンデミックという脅威を前にして、それを容認する空気が醸成されていた。

幸いにも、新宿・歌舞伎町の従業員が率先してPCR検査を受けるなど、地域の感染拡大を下火にできた。背景には、夜の街の人々も一緒に感染と闘おうという新宿区の職員らの姿勢が、彼らを動かしたともいわれている。

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